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しおりを挟むそれは中途半端に前世を思い出していた影響なのか。
むしろ生まれつきの性質、もしくは環境ゆえのことだろう。
今の俺自身だってルニアであることに違いはないので、根本的な部分は変わっていないはずだ。
だけど俺には前世の記憶があった。
ごくごく当たり前に、日本人として生きてきた記憶。
細かいところまで全部を覚えているわけではない。
とは言え日本はこの世界よりもよほどいろいろな情報にあふれていて。
否、もしかしたらこの世界の中でも別の国などでは同じようなものなのかもしれないけれど、少なくとも俺の生まれ育った環境の中では、日本ほど雑多な情報があふれていなかったことは確かだった。
前世は例えばテレビだとか、ドラマ、映画、アニメ、マンガやゲーム、そしてインターネットなどが当たり前に使用されている世界だったのだ。
紙媒体となるマンガや小説などはともかく、この世界ではテレビは勿論、テレビゲームなどはなく、インターネットも存在していない。
そもそも電気が主流として使用されていないのだから、それ以前の話と言えることだろう。
映像記憶媒体などはあるし、時折市民にも広く、遠方にまで通信用魔導具のようなものを使用して告知を行ったりもする。
言うならばそれはニュースというような形でなら国民が知る手段があるということだ。
だがそれらの動力源は電気ではなく全て魔力であり、必然、高価な物となり、庶民が手軽に触れられるようなものではなかった。
つまり何が言いたいかというと、立場的におそらくは庶民よりもずっと情報を得やすい立場にいたはずの俺でさえ、日本のように煩雑な情報に晒されているわけではなかったということだ。
否、立場が立場であったがゆえに教育やなにやらの時間もあり、触れる情報が偏っていたかもしれないけれども。
とにかく、前世の俺とルニアでは、触れ合ってきた情報の種類が違うのだ。
もちろん、しつけだとかそういう意味での育てられ方も違う。
そうするとどうなるかというと、たとえ同じ性質を持っていたとしても、同じようには育たないのである。
と、言うか、BL小説などを好んで空想の中で疑似体験しまくっていた俺と、大切に囲い込まれるように育ってきたルニアとでいくら元々の性質が変わっていないとはいえ、同じように育つわけがないというだけの話だ。
実際の所、前世の俺が以前のルニアのような脆い部分を持っていたかどうかはよくわからないけれども。
だけど今の俺だってルニアであることに違いはなく、ただ前世を思い出しただけで、根本的な性質など、何かが変わっているわけではないはずなのだから。
その証拠に、ラティと相対した時に感じる慕わしさや、シェラを目にして揺れてしまう、まるで依存してでもいるかのような気持ちなどに違いはないのだろう。
(それもこれも記憶を全て思い出したからこそだけど)
心の中で小さく呟きながら、俺は今、シェラを前にして、いっそ涙を流してしまいそうなほど、何故だか心底ほっとしていた。
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