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しおりを挟むそれぐらいには心配をかけたのだろうと思うと心苦しくてならない。
なお、件の男に対しての処罰が、昨日シェラに聞いたよりも随分と重くなっているのだが、今の俺はむしろそれぐらいでなければとさえ思っていた。
あるいはおそらく、ラティは把握できているけれども、シェラには伝えていない事情が他にあるのだろう。
シェラが俺に偽りを告げていたとは思えない。
ならば考えられる理由としては、シェラが教えてくれたのは表向きの理由や対応についてと解釈できた。
あくまでも俺の侍従に過ぎないシェラの権限で、知り得ることのみということだ。
そして今までのルニアであれば、そこまでしか知らされることがなかった。
あの夜会の際に関しての謹慎期間を半年だと把握していたのがいい証拠だ。
でも、今、ラティはそうではない事情を俺に伝えてくれている。
ラティの中で、俺に対して何らかの判断を下したということなのだろうか。
そこまでは俺にはわからなかった。
ただひとつわかることは、どうやらルニアへの対応を変えたようだという事実のみ。
それが何だか信頼の証か何かのように思えて面映ゆい気持ちになる。
だって今までのルニアだと本当に、ただの庇護対象だったのだ。
守り、囲わなければならない相手だと思われていたはずだ。
誰にでも告げられる、表向きの事情しか教えられないぐらいには。
何も告げられず、だけど大切に囲われ続けてきた。
とは言えきっと、これからだって囲われ続けることそのものは変わらないとは思う。だけど。
「彼の以前言い渡された謹慎期間が半年だというのは事実ではあるから、そこを利用されたというのはあるよ。それでも不審な点はまだ残っているんだけどね。……例えば、彼を唆したのは誰なのか、とか」
俺が取り乱したりする様子がないことをよくよく確認した上でだろう、更に話しを続けるラティに、俺は一瞬ドキッとする。
もちろん、唆したのは俺ではない。前世で読んだBL小説とは違うのだから。
しかしそれはそれとして、唆した誰かが存在しているのは事実ではあるらしい。
心当たりは当然ない。が、しかし。
「俺の存在が……面白くない、誰か?」
あるいはラティの伴侶が俺であることに不満を抱いている人間か。
俺は幼い頃からラティの婚約者でこの国に滞在し続けてきた。
身分としては隣国の王族で問題がなく、表向き反対している者などこれまで存在したことがなかった。
だがそれはあくまで表向きで、実際に本当に誰もいないと言い切れるものではないのだろうことは少し考えればわかることだ。
そこまで国内に不平を抱いている者などの不穏分子が全く存在していない国など、ある特定の国を覗いてあり得ないと言ってもいい。
否、そう言った特殊な国であっても、国外にまで範囲を広げればいくらでも該当する誰かしらがいるものなのだから、全く特殊ではないランティエイザ王国であれば、言わずもがなというものなのだろう。
(でもそんなこと、ルニアは理解していなかった……)
王族として生まれ育ったはずなのに、なんと幼さかったことだろう。
だけど、今の俺にそんな幼さはなく、今更そんな事実にまで思い至り、なんだか胸が苦しくなった。
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