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28-1・ことの詳細
しおりを挟む元々、シェラが襲われるというシーンは小説の中にも存在した。
もちろん、場所は王宮の中庭などではない。
だが、相手はあの男だ。
イニエレス伯爵家の次男。
名前は……なんだったか。思い出せない。
確か、ジョンとかジュンとか、単純でありふれた名前だったはずだ。
シェラが学園に入学する前に一度見合い話が持ち上がって、だけど彼自身の素行の問題で立ち消えになった相手。
つまり素行が宜しくない男。
俺達より2歳上なだけで、当時成人前の学生であったのに、素行に問題があるとされるような相手だった。
だけどあいつはそもそも何処かでシェラを見初めたらしく、それで持ち掛けた縁談で、なのに見合いにすら至らず破談になって、それは男自身が原因だったのに諦めたりせずに変わらずシェラに執着して、だから。
学園の中でも妙にシェラに絡んだり、まるで嫌がらせのようなおかしな構い方をして、一見するといじめか何かのようにも見えるようなことをシェラに行っていた男で、だからこそ縁談もなくなったというのに、それをちっとも理解していないような男で、そして。
見かけたルニアが諫めたことがあるほどだった。
だからルニアはあの男を知っていた。
当然、よくない印象を持つ相手として、だ。
そしてあの男は、小説の中で、ルニアがシェラへと嗾けていた相手でもあって、ルニアがシェラのことを襲わせたとも言えたのだ。
もちろん、理由は嫌がらせのため。
ラティが気にかけているシェラが、シェラに執着するストーカーのような男に襲われたら、きっとラティにショックを与えることが出来るだろうと、そう思ってのこと。
作中でルニアが最終的にしでかした国家反逆罪などとはかかわりのない男で、ただシェラに執着しているだけの相手で、だからこそラティの捜査を僅かばかり攪乱させただとか、そんなような男で。
シェラが男に襲われたのは学園内にある裏庭でのこと。
当然王宮の中庭とだと、周りの様子も時間だって違う。
小説の中でのその場面は昼間で、あの日は夜会だったのだから夜だ。
だけどそもそも、夢以外でそのような場面など見たこともなければ、想像すらしたことのなかったルニアにとっては、そのような違いなど些細なこと、混合するには充分だったのだろう。
何よりルニアはたったそれだけ。
言ってしまえばそう大きな出来事でもない、かと言って些細というにはシェラにとってはショックだろう、未遂に終わったとはいえ、理不尽に男に襲われる場面を目撃して、ルニアはそれから半年も部屋に閉じこもってしまうぐらいの衝撃を受けてしまったのだった。
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