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しおりを挟むそれにしても。
「見合い相手……」
そんな話が出ていたのかと驚く。
シェラは俺やラティと同じ年なので今年19になる。
つまり成人していて、そして俺が知る限り婚約者などもいなかったはずだ。
結婚を意識するのに遅いということもない。ただ。
あの時に感じた、全く知らないわけではないけれども、決して親しくなんてない気配。あれは。
「あれは……、確か、イニエレス伯爵家の次男だったな。いつの間に見合いなんて話になったんだ?」
昨日、僅かな時間しか俺の判別できる範囲にいなかったけれど、その時に感じた魔力から記憶をさらい、相手を特定する。
確証はないが、多分間違っていないことだろう。
シェラは子爵家の者なので、爵位だけ見るなら何も不自然な相手ではない。
跡取りとなる長男ではなく次男である所も、ちょうどいいと言っていいだろう。
確か年齢も、
「二つ上だったか? 学園の在学がかぶっているな。シェラが学園に通い始めたのは高等部からだが、俺達が一年の時の三年か」
とは言え、校内で見かけた記憶もなかった。
ただ、勿論、だからこそ魔力を全く感じたことがないというわけではなかったし、夜会などでも二、三度は目にしたことがあるはずだ。
とは言え、たったそれだけの相手。
「っ……! よくお分かりになりましたね。距離もありましたし、可能な限り早く、あの場からは離れて頂いたのですけれど」
よく、分かった。
そう言われてはたと気付く。
そうだ、なぜ俺は誰なのかの特定が出来たのだろうか。
先程列挙した通り、全く知らない相手というわけではないが、そんなものこの国だけでも何百人といる。
当然、そんな相手の家名や立場などを全て覚えているわけがなかった。
(ましてや全く親しくもない相手だ、なのに、)
一瞬、何かに気付きかけた、俺が覚えた違和感や疑問は、しかし続けられたシェラの言葉にすぐに押し流されてしまう。
「そもそも、ルニア様がいらしていましたので、あの辺り一帯は立ち入れないようになっていたはずなのですが、入り込んできていること自体がよくありませんでしたから」
それもまた間違っていないことだった。
むしろ俺自身、気になっていたことと言っていい。
だからこそ、抱きかけた違和感などよりもそちらの方へと思考が流れていったのだ。
シェラは俺に何も隠すことなく、続けて理由も教えてくれる。
「本人曰く、あの庭の手入れをしている庭師に用があったのだそうです。元々家系も含め、そういった事業に従事している者ではありますので、嘘だとか言うわけではないのでしょう。確認も致しましたが偽りではありませんでした。ただ、とは言え、王宮にまで赴くことは多くなく、昨日は迷ってしまったのだとのこと。あの場に僕がいたのは全くの偶然で、むしろ、早急に対応してもらえて助かったとも言っていましたが……」
言いながら、しかしシェラは苦々しく顔をしかめていた。
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