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しおりを挟む何があったのだろうか。
よくない予感がした。
かと言って決定的に彼が害されているとも思えない。――……これはただの予感だけれど。
だってあの時も、今と違って物凄く嫌な予感がしたんだ。
だから僕は……――。
(僕、は? あの時っていつだ?)
ごくごく自然に思った自分自身の思考に愕然とする。
改めて考えてみて、だけどやはり思い出せない。否、思い当たることはあった。
(多分、婚姻式の時の夜会……)
何かがあったとしたらそこだろう。
それだけは間違いない、そんな確信があった。
とにかく今は、不安に感じはすれど、そこまで嫌な予感などはしない。
シェラが、俺が何もしなくても気配を察せられる距離にいない。
珍しいことだというのも含め、気にならないわけがなかった。
でも、同時に、嫌な予感がしない以上、多分本当に心配はいらないだろうことも理解できているのだ。
なら余計に今これ以上シェラを気にかけてもどうすることも出来ないだろうことは明らかで。
(嫌な予感がしたなら探すけど、そうでもないし……)
俺はそもそも、シェラを俺の側へと縛り付けたいわけでもない。
いくら侍従で今は一応仕事の時間中だとは言え、ちゃんと主人に許可を取って席を外している以上、咎めるようなことでもなく。
少しだけ考える。
今の時間は多分ちょうど、そろそろラティが午後の休憩を摂るだろうぐらいの時間だった。
このままお茶なり読書なりをこの場所で続けてもいいのだけれども、なんとなく落ち着けるような気がしなくて、部屋に戻ることにする。
どうしてだろうか、ラティの顔が見たいと思った。
今、何故だか無性に、ラティの顔が見たいのだ。
漠然とした焦燥と欲求。
ラティがもし休憩を摂るなら、可能な限り俺の顔を見に来ようとしてくれることだろう。
その際はここにいるよりも、部屋に戻っている方がラティも戻ってきやすいのは間違いがない。
単純に距離の問題なのだけれども、ラティの執務室には俺の私室の方が近いのだ。
とは言え、ラティの執務室は王宮のほぼ中心にあるお義父様の執務室と近しい場所に設えられていて、俺の普段過ごす私室はそこからすると更に奥まった場所にあり、それなりに離れてはいるのだけれども。
そしてこのガゼボはラティの執務室から見るとそんな私室を更に通り過ぎた場所に位置していた。
ならなおさら部屋に戻る方がいい。
(だってその方がラティと会える確率が高いし)
思って知らず小さく頷く。
パタン、音を立てて本を閉じた。
「部屋に戻るよ」
「かしこまりました」
一言告げて立ち上がると、控えていた侍従が心得たというように頷いた。
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