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 要は魔力の流れを見る、だけだからだ。
 それは医療師などでなくとも、魔術が多少できる者なら誰でも可能で。
 そしてラティは決して魔法や魔術が苦手なわけではないのである。
 そのラティ曰く、経過としては順調、少々魔力が予想より多く必要となっているが、おそらく問題となるほどではないだろうとのこと、ラティ以外にも、俺自身に魔力を流したりなどせずとも視認することを得意としている医療師も同じ意見であるようで、俺は少々の不安を抱えながらも、同時にほっと安堵の息を吐いた。
 ただし、今感じている程度の不調には、生れるまで、否、生れてからも授乳期間中は度々見舞われるかもしれないとも言われているけれども。
 そういった部分は結局ラティ次第と言っていいのだろう。
 俺一人の魔力ではどう考えても足りないので、ならどうするのかというとラティに補充してもらう以外に方法などないのだから。

(『今』以上の補充って……)

 そんなもの、寝台に拘束されるというのと同義だ。
 なんとなく気が重くなる。
 背に腹は代えられないと言ってしまえばそれまでなのだけれども。
 そう言うことをぐるぐると頭の片隅で考えながら、その日、俺は庭を散歩していた。
 相も変わらず私室に近い場所。
 とは言え、庭は広く、庭師が良く手入れしてくれているようで、見ごたえのある花壇がある一方で、木々の枝などが、歩行の妨げにならないよう配慮されたりもしているようだった。
 建物から少し離れたところにガゼボがあり、そこで読書をしたり、軽食を摂ったりもしている。
 時折休憩と称してラティやお義母様が顔を見せたりもした。
 今日も目指しているのはそのガゼボだ。
 ちらと見ると気を利かせた侍従が読みかけの本を幾冊か持って来てくれているようなので、読書の続きをするのもいいかもしれない。
 そんなことを思いつくとほとんど同時に、それほど離れていないガゼボにはほどなくして着いた。
 誰もいない其処は、しかし一方で開放感にあふれ、暑くも寒くもない今の季節だと、午後を過ごすのにちょうどいい雰囲気となっている。
 渡る風もさわやかで、ざわざわとした微かな木々の囁きにも、なんだか心が落ち着くような気持ちになった。

「ルニア様、これから午後はこちらで?」

 ガゼボの中、設置されている椅子の方へと向かう俺に、一番すぐ近くに控えていたシェラが、一応といった風に確かめてくる。
 俺は小さく頷いた。

「ああ、そうだな。天気もいいし、このまま、今日は少し読書でもするよ。本も持って来てくれてるみたいだしな」

 もちろん、日によってはここに留まらず部屋に戻ることもある。
 そうするとわざわざ本を抱えている侍従は持っていた本が無駄になるのだが、彼らにとってはそのようなことはわかっていての気遣いなのだろうから構わないのだろう。
 俺もいつからか、そんな、小さいことを気に留めたりなんてしなくなっていた。
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