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22-1・小休止、あるいは幕間
しおりを挟むそれから、同じような夢を何度も見るようになった。
おそらくは全部、小説で読んだことのある場面ばかりだと思う。
ただ、前世で読んだ小説の内容自体が、日を追うごとにだんだんと曖昧になっていってしまっていて、本当にそうなのかなど、はっきりとした判断はできなかった。
決まってルニア視点で、心情ごと、まるでルニアに憑依でもしたのかと思うような夢ばかり。
夢そのものの詳細は、覚えていたり覚えていなかったり……否、すぐに忘れてしまうと言えばいいのか、覚えていないことの方が多かった。
はっきりと思い出せる夢であっても、夢だけあって荒唐無稽だったりすることも多くて。
夢は夢でしかないし、そんな夢を見るのは、俺自身が気にしているからなのだろうとも考えている。
そしてそれはきっと間違ってもいないのだ。
でも、そんな風に考えられるのが、俺が俺だからなのだろうということも同時に理解していた。
もし前世の記憶がなければどうなるのか、ということはきっと、シェラから聞いた通りなのだろう。
つまり俺が思い出せない部分のルニア自身の反応や心情ということだ。
夢以外についても、特に何か問題が起こったりなんてしない。
思い出せない記憶は思い出せないままだったし、毎晩共に過ごすようになったラティも相変わらずかっこいい。
食事のほとんどを食堂で摂るようになり、お義母様とも何度かお茶をご一緒した。
散歩と称して、図書館などにも赴く。
ただし、いまだに他には中庭の一部ぐらいにしか自由に出歩く許可は下りないが、部屋に閉じ込められていたことを思えば充分ではないかとも思う。
と、言うよりかは、それよりも他の何処かとなると、俺自身が怯んでいるというのもあった。
何故かなんとなく、行きたいとは思えないのだ。
なんだか恐ろしいことが起こりそうで。
この漠然とした恐怖こそが、記憶を失う前の俺自身が、望んで部屋から出なかった理由なのだろうと思い至った。
否、恐怖を感じるきっかけだとかを、今は理解できないのだが、その時には把握していたのだろうけど。
もっともそんな恐怖だとかを感じていなかったとしても、多分俺は面倒くさくて出歩いたりなんてしなかっただろうけど。
なにせ、王族だったり、王太子妃だったりするのは伊達ではないと言ったらいいのか、少し移動するだけで、やたらと大げさに感じるのである。
もしこれが普段行かない、自室から遠い場所に足を向けるとなると、護衛やら侍従やらがどれだけ動員されることになるのかと思うとうんざりする。
そういうものだと言ってしまえばそれまでなのだけれど。
図書館や庭の一部ぐらいならば、そこまで大げさにはならないのだ。
少なくとも、別途予定を組まれたりなどはしていないので。
もちろん、それでも部屋にいる時よりは特に護衛が多く必要となっているようだけれども。
幸いにしてと言えば良いのか、公務などは割り当てられないまま。
ちらとお義母様に確認すると、子供を産んでから1年ほど経つ頃までは今のような状態が続くだろうということだった。
特にランティエイザ王国ではお義父様もお義母様も健在なので、無理を通す必要もないのだとか。
とは言え、一部の夜会などの出席は必要となるのだが、その予定も数ヶ月後、今度は出産が近い頃となるので、そういった意味で次の機会は控えなければならないだろうとのこと、いずれにせよ、その次のそういった夜会となると、子供が生まれて数ヶ月後になるだろうと教えられた。
書類仕事だとかに関しては、少しずつ増やしてもらっている。
いくらラティを始め、お義父様、お義母様にも必要ないと言われたとはいえ、あまりにも何もしないままであることが、以前から心苦しく思っていたからだった。
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