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しおりを挟む特にルニアは周囲から守られて育ってきた。
初めて目に身近に感じた『悪意』が、身に覚えがなくとも自分自身が持っていたものであったなら。
それはどれほどの恐怖であったことだろう。
そんなことはわかっている、わかっていたことなのだ。
ただ、実際に夢で見てみて、漠然と思い知ってしまっただけで。
「でも、多分、今見た夢は……」
同時に、すぐに、部屋に閉じこもる要因となった物とはまた別だろうことも理解できた。
起き抜けに思考を巡らせて、知らずぼんやりしてしまっていた俺はいつの間にか、俺が起きたことに気が付いたのだろう侍従の一人が、傍近くまで来ていたことに気付くことが出来なかった。
「ルニア様? どうかなさいましたか? シェラ様をお呼びしますか?」
控えめに声をかけられてはっと我に返る。
顔を上げた先、思いの外、近くにあったのは見慣れた青年の姿。
改めて周囲に意識を向けると、どうやら珍しくもシェラは近くにいないらしいことに気付く。
「いや、それには及ばない。大丈夫だ、少し夢見が悪くて……すまないが水を、」
軽く頭を振って大きく問題などないと伝え、代わりに少しばかり頭をはっきりさせるためにもと望んだ水は、すでに準備していたのだろうすぐに手渡された。
コクリと飲んで一息吐く。
それにしても、と内心で思う。
(シェラがいないなんて、珍しいな……)
休憩だろうか、と一瞬思って、すぐに違うと思い直した。
夜、就寝してからならともかく、昼間に俺が横になっている間に、シェラが予定外に休憩をとることなど考えづらい。
軽食の準備でもと、たまたま席を外しているだけなのか、否、今の時間からして、わざわざそのようなことで自分から動くとも思えず、ならばと考えられることは誰かに呼び出されたことぐらい。
それぐらいにシェラは常に俺の側にいて、休憩などで少しばかり長くその場を離れる時にも、ほとんど必ず、俺に一声伝えてくれるのが常だった。
だからこそ今のこの状況は非常に珍しく思えて、だけどどうしてだろう、どこかほっとしてしまう。
シェラが常に近くにいる、それを疎ましくなど思ったことはないはずなのに。
ましてや、シェラ自身に思う所などあるはずがない。
シェラは間違いなく、好ましい人物なのだから。
(なにせ天使だし)
同時に何となくほんの僅か、心細くも感じていて、俺はそんなことだけでも、どれほどシェラが自分にとって、常に傍にいて当たり前の存在になっていたのかと今更に思い知るのだった。
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