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 夜も前日までと同じようにどろどろに溶かされる。
 ふわふわとよって、前後不覚に陥って、それで。それで……――。

「らてぃいぃ、もっとぉっ……!」

 なんて、いつも通り揺さぶられながらねだった覚えまであるのだけれど、こればかりはいつもと違うと言えば違うだろうか。
 正直に言うと、媚びる、というか、機嫌を取る、というか……そういう考えとか気持ちがあって、それが無意識に言動に現れた、のではないかと思う。
 つまりは意図してのものではなかったということ。
 だけどラティが気を良くしたのは間違いないことであるようだった。
 なにせ翌朝、朝食の後の食後のお茶の時間に。

「そろそろ……散歩ぐらい行きたいんだけど……まだダメ? 心配?」

 なんて、不安そうに訊ねてみたら、ラティはしばらく難しそうな顔をしてじっと俺を見て、だけど、ややあって、深い、深い溜め息一つ。

「……わかったよ。君も随分安定したみたいだしね。もともといつまでも閉じ込めておくつもりもない。何より君自身がそう望むなら、私が叶えないわけがないじゃないか」

 少しだけ苦い笑みと共に自嘲を吐き出してそう言った。
 らしくない様子に胸が痛んだ、でも。

「え、ほんと……? ぅわぁ、ありがとう、ラティ!」

 じわじわと喜びがしみ込んで、俺たちの間にテーブルがあることなんてお構いなく、体を乗り出して、飛び上がるように満面の笑みで抱き着いたら、テーブルの上がガチャガチャとなって、お茶がこぼれて、

「うわっ、ちょっとっ! ルニアっ?! 危ないじゃないかっ! 落ち着きなさいっ、ルニア!」

 と、それこそらしくなくきつく叱られたが、これは俺が悪かったと反省した。

「……ごめんなさい…………」

 しゅんと殊勝に謝るとラティは改めて深く、深く溜め息を吐いて、

「まったく……君は落ち着きをどこに落としてきたんだ。少しは落ち着いてくれ。数ヶ月後には子供も生まれるというのに……これじゃあ心配で、さっきの自分の発言を撤回したくなってしまうよ」

 そう言って困ったように笑うから、俺はますます身を縮こまらせることしか出来なかった。
 ちなみに別に前言は撤回されないみたいで、部屋の外へ出る際の注意事項のようなものをいくつか言い渡されたので、俺は改めて抱き着いておいた。
 ラティは満更でもない顔をしていたし、俺は、

(まったくっ……! 閨でのおねだりが有効だなんて!)

 と、何とも面映ゆい気持ちになるばかりだった。
 ともかくそうして、俺は数週間ぶりにようやく、部屋の外へ出る許可をラティから頂いた次第なのである。

(案外チョロいな)

 なんてことは流石に口にはしなかったけれど、思ってしまったのは内緒だ。
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