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しおりを挟む多少の不調は、治癒魔術を使用すれば自分で何とかしてしまえる。
もちろんラティも、夜のうちに治そうとはしてくれているとは思う。
ただ、ラティはいかんせん、治癒魔術が得意というわけではなく、特に自分以外の誰かに欠けるのはむしろ苦手であるようで、朝に自分で追加で治してしまう必要があった。
(ま、俺は別に苦手じゃないし、いいけどね……)
そんな程度の不調は取るに足らない。
だった魔力はたっぷりあるのだし。
朝起きて、自分で自分をとっとと治して、ラティと朝食を共にする。
執務に向かうラティを見送ったら、いまだ部屋から出ることを許可されていない俺は、少しばかりの書類仕事を片付けたら、あとはただひたすらだらだらしながら過ごすばかり。
持って来させた本を読んだり、映像記録用の魔導具を再生し、うっとりとラティを眺めたり。
悠々自適と言ってしまってもよく、特に不自由も感じない。
流石に以前のように刺繍だとかまではする気にはならないけれど、それだって、しなければならないわけではなかったのだから構わないはずだ。
通信用魔導具で、両親や兄弟などと話すこともあった。
ゆっくりと日々は過ぎていく。
何も変わらない。
欠けた記憶もそのまま、一向に思い出せることもなく。
そうして数週間過ごすうちに、お腹がふっくらと膨らみ始めた。
とは言え、なんとなくそう思えるという程度で、そういきなり大きくなったというわけではない。
ただ、ルニアとしての記憶を紐解いても、確かにそういう時期なのは確かで。
子供を成している時は、成して半年、つまり6か月を過ぎた頃から生まれるまで、少しずつお腹は大きくなっていくものなのだ。
子供は母親の体内にある間は、肉体などないにもかかわらず、まるで自分の存在を忘れないようにとでもいうように。
多少の個人差はあるし、前世で見たことのある妊婦さんほど大きくなることは稀なようだけれども、それでもまったく変化がないだとかは、それこそ大変に珍しいと習った覚えがあった。
とにかくそうして膨らみ始めたお腹を見下ろして、だけど欠けた記憶が気にならないわけがない。
気持ちとしては随分落ち着いて、心情も整理できてきてはいるから、もういいと言えば良いのだけれど。
「まぁ、でも、流石に散歩ぐらいは行きたい、かな……」
いつまでも部屋に籠りっきりというのもいいようには思えないし、せめて以前と同じよう、食事ぐらいは食堂で摂りたい。
ラティの両親であり、俺にとっては義父義母に当たる陛下方にも、一度も会わないままというのもよくはないようにしか思えなかった。
もう数週間もラティの望むまま大人しくしていたのだ。
そろそろラティも、許してくれるのではないかと思った。
明日こそはとそう決める。
明日の朝、朝食の後。ラティに部屋から出たいと言ってみようと。そうと決めると随分と楽になって、その日もその後は、ただ、いつも通りだらりと過ごした。
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