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16-1・閨の中で
しおりを挟む今夜、五日ぶりに夜を共に。
それを踏まえて共にテーブルを囲う夕食は、なんだかひどく面映ゆかった。
無意味にラティを意識してしまう。
ラティはラティでどことなく嬉しそうにも見えるからこそ余計に。
なんとなく気まずく思いながら向かい合って、いつも通りに夕食を摂り、食後のお茶へと移動する。
会話などほとんどない。
だって俺が緊張しているから。
多分それがラティにも伝わっているのだろう、
「今日のソースは初めての味だね」
だとか、それが悪くないだとか、
「俺……いえ、僕の故国では何度か口にしたことがある味ですよ」
などと返したりだとか、当たり障りのない、数少ないやり取りに終始した。
とはいえ、元々そこまでよく話すというわけでもないのだけど。
ただ、今夜はいつもに輪をかけて会話が少なかったというだけで。
お茶を飲んで一息吐く。
ラティが、何かを言いたそうにしているように見えて、俺はちらと視線で先を促した。
遠慮などい今さらだろうと、そんな風な気持ちを込めて。
理解したらしいラティが苦笑した。
「……報告を……貰っているよ。今夜は共に過ごしたいと、そのようなことを言っていたと。……気持ちは落ち着いたと、そう思っていいのかな?」
やんわりと、喜色を滲ませながら確かめられて、俺は頬が赤くなるのを、自覚せずにはいられなかった。
だってそれはつまり、ラティが、予想通り、俺と夜を共に過ごすことを望んでいて、何より俺の方から、そこで行われるだろう行為をも、望んでいるという意味となるからだ。
俺がそういった行為へと誘いかけたということ。
恥ずかしくないわけがない。
曖昧な所も多いけれど、思い出せた限りの前世を含めて、ルニアとして過ごしてきた今までを考えても勿論、そんなことは一度としてしたことなどなかった。
特にルニアは、そうして自分から誘ったりしなくとも、ラティから常に求められ続けてきたのである。
もっと言うならば実は、ルニアの閨教育自体全て、ラティが担っていたりする。
同じ年であるはずのラティが、だ。
魔力云々の仕組みなど、知識的なものは流石に、教育担当の者からも学んでいたけれども。
閨の中で具体的にだとか言うことを、ルニアに教えたのはラティで。
ルニアはそれを、今まで全く疑ったりなどしていなかった。
ちなみにそれ自体は、前世の知識と照らし合わせると、少しばかり、ラティに都合のいいように偏っているのではと思わざるを得ないようなものだったのは事実。
ただしかと言って、では正しい知識とは? とも思ったりするけれど。
とかくルニアは、こと閨の中においてはラティの言いなりだったということだった。
そしてそれを踏まえても、自分から誘いかけるようなことなど、口にしたことがない。
恥ずかしいに決まっていた。
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