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しおりを挟む一度、故国に戻る。
それは決してあり得ない選択肢というわけではなかった。
ただしそんなこと、ラティが許すとは全く思えなかったけど。
それにそもそも、許すだとか許さないだとか、そういう話ですらない。
「今は……状況が状況ですから、それは流石に……」
控えめに断りながら、すっと、自然にお腹へと添えた手に込められた意図は、勿論、正しく相手にも伝わったことだろう、へにょと一国の主にあるまじきほど、情けなく下がった眉は、それでも自ら口にした提案を名残惜しく思ってくれているからか。
『それは……確かに。ラティ殿と離れるのは得策ではないのだろうが……』
「一度近々、直接お顔を拝見しに伺うようにはしますから」
気付けば自然に、そんなことを口にしていたのは、多分、流石のラティも、それぐらいなら許してくれるのではないかと、今までの経験から予測をしたに過ぎなかった。
ラティはルニアが、家族にいっそ溺愛されていると言っていい状態にあるのを知っている。
それもあって、だからこそ今日も、通信用魔導具などわざわざ持って来てくれたのだろうし、ラティだってむしろ、俺の両親などに、無用な心配をかけたいわけでもないはずだ。
だから、予めそうお願いさえしておけば、予定を調整してそれぐらいならば近々叶えてくれることだろう、そう思った。
あくまで顔を見せるだけ。
直接会って、でもきっと直ぐに戻ることになる。
泊まりもしない、ただの訪問だ。
それさえも許されないだなんて、外交上の理由から考えてもそれこそ有り得ない。
……今は部屋からさえ出してはくれないけれども。
それとこれとはきっと、別だと考えるはず。
ラティはあれでいて、多分、俺の希望を無碍にしたりなどはしないのだから。
(まぁ、束縛が強いのは元々だけど……)
そもそも、初等部の入学から、などと言う大変に早い時期から、俺が親元を離れ、こちらの国へ来ることになったのだって、ラティが是非にと願ったことだった。
ラティはそういった意味でも、俺の両親の、『たまにはルニアと直接会いたい』などと言う願いを突っぱねることが出来ないのである。
近々会いに行く。
その一言で、ある程度引き下がることにしたのだろう、父が、
『ああ、そうだな、なら、出来るだけ早く予定を調整するようにしなさい』
などと念を押してきたので、俺は素直に首肯した。
「ラティ様にもお願いしておきます」
いずれにせよ、どのような状況であれ、帰国するだとかそう言うことは、俺の一存でどうにかできることではない。
それは勿論、両親もわかっていることなので、それ以上食い下がられたりすることはなかった。
その後、実は同じ部屋にいたらしい兄弟たちとも話して、和やかに通信を終えた。
記憶にある通り、ルニアへの愛を疑うべくもない両親や兄弟の様子は、なんとなく俺に安心と、俺は俺のままでいいのだという根拠のない自信のようなものを与えてくれているように感じられた。
ただ一つ、最後にポツリ。しみのような物だけを残して。
家族との通信、それ自体に関しては、本当に問題はなかったのである。
久しぶりに家族と話せてよかった。
それが嘘偽りない、俺の感情であることだけは確かなことだった。
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