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 しばしの沈黙。
 気が付いた時にはもう遅い。
 ラティは、表情ごと固まらせて無言だった。

「ちょ、るるる、ルニア様、な、なんてことをっ!」

 シェラが明確に焦ったように取り乱す。

「え? あっ……え?」

 何故シェラはそんなにも怯えたような顔をしているのか。
 自分の願望を流されることなくようやく口に出来た達成感と、その結果なのかなんなのか、おかしくなった空気とに流石に気付いて俺もなんだか狼狽えてしまう。
 宥めてくれるような人なんて、居なかった。それどころか。

「るるる、ルニア、様っ! はははは、早く、て、撤回してくださいっ! さぁ、すぐに! 早く!」

 シェラがあわあわと何かを促してくるけれど、俺にはいったい何を言っているのか理解できなかった。

「え? いや、撤回? え?」

 いったい何を撤回するのか。撤回しなければならないようなことは言っていない、だって俺は俺の望みを口にしただけだ、だって俺は推しと推しが仲良くしてるのが見たいんだ、自分が当事者になりたいんじゃない、だから、それで。だけど。
 俺はわかっていなかった。
 自分が捲くし立てた言葉が、いったいどういう意味を持っているのか。いったい誰の何を・・・・踏みじにったのか。シェラがこんなにも焦っているわけも。

「ルニア」

 ぽつん。
 何故かはっきりと耳に届いたラティの声は嫌に静かだった。

(あれ?)

 何故だろう、さぁっと血の気が引いていく気がする。
 背筋を続々とわけのわからない寒気が這い上がってきた。

(え?)

 もはや声すら出ない、否、声を出すことも出来ない。
 それはシェラも同じなのか、もはやことばなく淡淡しているのだけが視界の端で確認できた。

(え?)

 ラティは先ほどまでと変わらず俺のすぐ傍にいる。そして。
 何故だか物凄い笑顔を浮かべていた。
 にっこりと、なのに凍り付きそうな笑顔だ。

(え?)

 ラティのことを押しのけようとして、突っ張るようにしたままで固まっていた俺の手が、がしっとラティに捕まれる。

「ルニア」

 もう一度、改めて名を呼ばれた。
 掴まれた手が痛い。

(え?)

 戸惑いや疑問の声一つ上げられない。
 ラティは、笑顔だった。そして。

「離縁? まさか、そんなもの……するはずがないよね?」

 にこやかに、ただひたすら静かに。
 そう告げたラティはどう考えても、抑えきれない憤怒を、滲ませずにいられないようにしか、見えなかった。
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