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 遠慮がちにシェラが、ラティへと声をかけたのだ。

「失礼ながら殿下、発言をお許し頂けますか?」
「許そう」

 今この場でいったい何を言うつもりなのか。
 当然、俺に関すること以外はないだろうと判断したのだろう、ラティが迷うことなく許可を出す。
 シェラは控えめな態度で、だけど、ほっと安堵したように小さく頷いた。

「ありがとうございます。ルニア様のご異変ですが、先程、私にお伝えくださったのは、『夢の所為』ということでございました」
「夢?」

 どうやら先程の俺とのやり取りを伝えるつもりでいるらしいシェラに、そちらへと視線すらやることなくラティが怪訝そうに問いかける。
 俺はシェラの言葉を止めなかった。
 否、そんなことにまで思い至れず、ただただ戸惑ったまま、真っ白な頭でラティを見つめ続けるだけ。
 思っていたことなんて、

(ああ、ほんとマジかっこいい……)

 そんなものだ。
 怪訝そうにしている顔もカッコよかった。眼福っていうやつだった。

「はい、『夢』です。おかしな夢を見られたのだとか。その所為で、少し混乱していらっしゃるのだと私にお話しくださいました」

 ほんの先程のやり取りだ。
 俺は特に間違いがなかったから口を挟まない。
 それどころか、今のこの明らかにいつも通り・・・・・ではない俺の様子も、シェラの話している通り、『夢の所為』だと考えてくれればいいとさえ思い始めていた。
 ラティに、見惚れるばかりの頭の片隅で。
 ラティは、シェラの言葉を受けて、何かをしばらく考えているようだった。
 その間も、俺から一瞬たりとも視線を逸らさない。
 真面目で真摯で、そして心配だ、顔に書いてあるかのような眼差し。
 ドキドキした。
 鼓動が高まって、体が熱くなって、きっと頬なんて真っ赤だろう、俺は何もわからない、何も出来ない。
 ただじっとラティの視線に内心で悶えるばかり。
 だって本当にかっこいいから。頭の中はいっそそれしかないと言ってもよかった。

「夢、か……」

 ようやくぽつり、ラティが呟く。
 俺は半ば反射的に、首をかくかくと縦に振って、何度も過剰なほど首肯していた。

「そ、そう……! 夢……!」

 あながち違うとも言い切れない。
 だって俺は、前世という、夢を見たのだ。
 夢で、前世を思い出した。……――もしかしたら前世を思い出したのは夢ではなく、起きた瞬間だったかもしれないけれど、そんなことはきっと些細なことだろう、きっとあまり間違ってはいない。
 何よりその前世に大変に引きずられているから、なんだかおかしくなっている。
 まごうことなく事実である。
 しかし、ラティの眼差しは一向に緩む気配を見せなかった。
 いったい何を考えているのか。
 そんなにも真剣に見つめられ続けたら何だかいつしか穴でも開いてしまいそうだ。
 何となく不安になった俺の目の前で、ラティが小さく眉根を寄せた。

「夢、ね……つまりルニア。君は夢で、前世でも思い出したのかな?」
「え?」

 次いで続けられたラティの言葉に、俺は目を見開いて驚くことしか出来なかった。
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