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 ラティが、の最押しが、の旦那様が、気遣わしげに眉尻を下げている。
 たったそれだけで、俺までなんだか心苦しくなってしまった。
 何か辛いことがあったのだろうか、何をそんなに気にしているのだろう、俺に出来ることはないのだろうか。
 などと、今の状況・・・・も忘れ、心を痛める俺に、ラティが改めて話しかけてくる。

「ルニア……本当にいったいどうしたんだ。なんだかいつもと違うようだけれども」

 その言葉に、何度目か、俺はようやく我に返り、いや、そもそもラティにこんな顔をさせているのは他でもない俺だったと思い至った。
 だが、だからと言って、何と応えればいいのかわからない。

「え……あ、俺……」
「……俺?」

 戸惑う俺の呟きに、ラティが不審そうな声を出す。
 指摘されたのは一人称。

「あっ……!」

 しまったっ! そう思っても、そもそも何もかも今更で。
 ああ、そうだった、ルニア・・・は自分のことをと言っていたのだ。
 先程シェラと話した時にはとりつくろえたのに、今はもう何も出来るような気がしない。
 何を、どう答えればいいだろうか。誤魔化さなければっ、咄嗟にそう考えた。
 だってきっといつも通り・・・・・なら心配なんてかけないのだから。
 だけどそうはいっても、いつも通り・・・・・とはどんな風だっただろうか。

「ルニア……」

 俺の名を呼ぶ旦那様の声は、こんな時でもものすっごくかっこよかった。
 ちょっと苦しげですらあるのに聞き惚れてしまう。
 こんなの、きっとあまり良くないのに。
 ラティを、苦しめたままでいいだなんて全く思ってなんていないのに。

「ぁっ……えっと……」

 頭の中が真っ白になる。
 ただただ目の前にいるラティがかっこいい。
 それだけしかわからない。
 何か、何か言わなきゃ。名を呼ばれている、どうしたのかと聞かれている。何か応えなければ。だけどどう応えればいいというのか。
 そんな風、何も出来ず、応えられずにいる俺を救ったのはやはり俺の天使、否、出来のいい侍従のシェラだった。
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