4 / 141
00-3
しおりを挟む別に俺だってあくどい人間でありたかった、だとか思っているわけではない。
むしろ、ルニアとしてのどの記憶を紐解いても、良心が咎めるようなことをしていない事実は安心できるようなことですらあった。
しかし、それはそれとして、だ。
ゆっくりと思い出していく。
今度は、突然降って湧いたように出てきた記憶の方だ。
つまりは前世の記憶。
俺は日本人で、男で、そして……――なんという、名前だったのか。
おそらく前世で間違いないと思うのだが、つまりは死んだのだと思うのだが、しかし、どういう風に死んだのかだとかいうのは全く思い出せなかった。
そもそも本当に死んだのかどうかさえ曖昧で、自分が何歳まで生きていたのかだとかもわからない。
ぼんやりと20歳後半か30か、それぐらいだったような覚えがあるので、おそらくそれぐらいまでは生きていたと思うのだけれどもそれだけ。
ただ、自分のことだとかがよくわからないにもかかわらず、断片的にではあれど、はっきりと思い出せることがあった。
そのうちの一つが、好きだったもののこと。
先程から述べている、BL小説についてである。
と、言うか、男でありながらBL小説が好きだったという辺り、俺はいわゆる腐男子と呼ばれるものであったのだろうと思う。
少し想像するだけでもなんだかドキドキするから間違いない。
もしかしたらこれは、実は違うドキドキかもしれないが。
少なくとも俺は前世で、BL小説や漫画などを好んで読んでいた。
ゲームなんかもしていたように覚えている。アニメも見ていた。
なんなら、全くBLなどではない少年漫画でも、男性キャラ同士がもし恋人同士なら、などと想像して楽しんでいたぐらいである。
その中でもひときわ好きだったBL小説があり、そこには今、生きているこの世界と、非常によく似た世界が、大変魅力的に描かれていた。
舞台は学園。その時に流行っていたのだろうと思われる、よくある異世界の話で、主人公はやはりありがちに、平民として育ってきて少し前に貴族に引き取られ、急に貴族となった可愛らしい少年。
爛漫で明るく、素直で頑張り屋さんだった。
名前は……――。
と、そこまで考えたところで、ドアをノックする音が響く。
一瞬、ビクッと震えながらも、俺は半ば無意識に反射的に、いつも通りの返事を返していた。
「失礼致します。ルニア様、起きていらっしゃいますか?」
一拍置いて、そんな言葉と共にガチャ、ドアを開けて入ってきたのは、いつも世話を焼いてくれている、見慣れた侍従で。
濃い桃色の髪がさらりとなびく。
礼儀正しく軽く下げられていた頭がゆっくりと上げられて。
その大変に可愛らしい姿を見た途端、俺は大きく目を見開いていた。
「し、シェラっ?!」
次いで知らず、悲鳴のよう、彼の名を呼んでしまう。
名を呼ばれた侍従が不思議そうに首を傾げた。
「はい、シェラですが……ルニア様?」
一番側近くで仕えてくれている侍従である。
わかっている、忘れていない。
だけど、それでもあり得ない、そう思ってしまう。
なぜならば、シェラ――……フロシエラ・ノムリエト、彼は……――。
「なんでここにっ?! 主人公だろっ?!」
そう、先程思い描いていた、こことよく似た世界で繰り広げられている、俺の好きなBL小説の、主人公だったのだから。
俺の頓狂な叫びに、当然ながらシェラは、わけがわからないという顔をするばかりなのだった。
178
お気に入りに追加
2,049
あなたにおすすめの小説
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!
あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。
かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き)
けれど…
高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは───
「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」
ブリッコキャラだった!!どういうこと!?
弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。
───────誰にも渡さねぇ。」
弟×兄、弟がヤンデレの物語です。
この作品はpixivにも記載されています。
地味で冴えない俺の最高なポディション。
どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。
オマケに丸い伊達メガネ。
高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。
そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。
あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。
俺のポディションは片隅に限るな。
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
BLゲーに転生!!やったーーー!しかし......
∞輪廻∞
BL
BLゲーの悪役に転生した!!!よっしゃーーーー!!!やったーーー!! けど、、なんで、、、
ヒロイン含めてなんで攻略対象達から俺、好かれてるんだ?!?
ヒロイン!!
通常ルートに戻れ!!!
ちゃんとヒロインもヒロイン(?)しろーー!!!
攻略対象も!
ヒロインに行っとけ!!!
俺は、観セ(ゴホッ!!ゴホッ!ゴホゴホッ!!
俺はエロのスチルを見てグフグフ言うのが好きなんだよぉーー!!!( ̄^ ̄゜)
誰かーーー!!へるぷみぃー!!!
この、悪役令息
無自覚・天然!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる