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 別に俺だってあくどい人間でありたかった、だとか思っているわけではない。
 むしろ、ルニアとしてのどの記憶を紐解いても、良心が咎めるようなことをしていない事実は安心できるようなことですらあった。
 しかし、それはそれとして、だ。
 ゆっくりと思い出していく。
 今度は、突然降って湧いたように出てきた記憶の方だ。
 つまりは前世の記憶。
 俺は日本人で、男で、そして……――なんという、名前だったのか。
 おそらく前世で間違いないと思うのだが、つまりは死んだのだと思うのだが、しかし、どういう風に死んだのかだとかいうのは全く思い出せなかった。
 そもそも本当に死んだのかどうかさえ曖昧で、自分が何歳まで生きていたのかだとかもわからない。
 ぼんやりと20歳後半か30か、それぐらいだったような覚えがあるので、おそらくそれぐらいまでは生きていたと思うのだけれどもそれだけ。
 ただ、自分のことだとかがよくわからないにもかかわらず、断片的にではあれど、はっきりと思い出せることがあった。
 そのうちの一つが、好きだったもののこと。
 先程から述べている、BL小説についてである。
 と、言うか、男でありながらBL小説が好きだったという辺り、俺はいわゆる腐男子と呼ばれるものであったのだろうと思う。
 少し想像するだけでもなんだかドキドキするから間違いない。
 もしかしたらこれは、実は違うドキドキかもしれないが。
 少なくとも俺は前世で、BL小説や漫画などを好んで読んでいた。
 ゲームなんかもしていたように覚えている。アニメも見ていた。
 なんなら、全くBLなどではない少年漫画でも、男性キャラ同士がもし恋人同士なら、などと想像して楽しんでいたぐらいである。
 その中でもひときわ好きだったBL小説があり、そこには今、生きているこの世界と、非常によく似た世界が、大変魅力的に描かれていた。
 舞台は学園。その時に流行っていたのだろうと思われる、よくある異世界の話で、主人公はやはりありがちに、平民として育ってきて少し前に貴族に引き取られ、急に貴族となった可愛らしい少年。
 爛漫で明るく、素直で頑張り屋さんだった。
 名前は……――。
 と、そこまで考えたところで、ドアをノックする音が響く。
 一瞬、ビクッと震えながらも、俺は半ば無意識に反射的に、いつも通り・・・・・の返事を返していた。

「失礼致します。ルニア様、起きていらっしゃいますか?」

 一拍置いて、そんな言葉と共にガチャ、ドアを開けて入ってきたのは、いつも世話を焼いてくれている、見慣れた侍従で。
 濃い桃色の髪がさらりとなびく。
 礼儀正しく軽く下げられていた頭がゆっくりと上げられて。
 その大変に可愛らしい姿を見た途端、俺は大きく目を見開いていた。

「し、シェラっ?!」

 次いで知らず、悲鳴のよう、彼の名を呼んでしまう。
 名を呼ばれた侍従が不思議そうに首を傾げた。

「はい、シェラですが……ルニア様?」

 一番側近くで仕えてくれている侍従である。
 わかっている、忘れていない。
 だけど、それでもあり得ない、そう思ってしまう。
 なぜならば、シェラ――……フロシエラ・ノムリエト、彼は……――。

「なんでここにっ?! 主人公だろっ?!」

 そう、先程思い描いていた、こことよく似た世界で繰り広げられている、俺の好きなBL小説の、主人公だったのだから。
 俺の頓狂な叫びに、当然ながらシェラは、わけがわからないという顔をするばかりなのだった。
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