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51・護衛依頼⑬
しおりを挟む程なくして岩場に辿り着く。
馬車を止め、じっと身を潜めた。
一応、俺は護衛なので馬車から出て、辺りを警戒する。
だが、何の気配もない。
当たり前だろう、そう思った。
だって、アーディが行ったのだ。
言わば足止め、あるいは殲滅に。
否、捕獲? 無効化? だろうか。
アーディが彼らを、何か決定的に害しているとは全く欠片も思わなかった。
だけど確信がある。
奴らはここには来ない。
何故なら奴らの元へと向かったのがアーディだから。
奴らは決してここには辿り着かないし、何なら他のものでさえ、此処には辿り着けないことだろう。
それは言うならば確信だった。
此処にいるものは皆、警戒しているが、そんなもの言わば無意味なのだ。
とは言え俺も勿論、辺りを見回していく。
注意深く、何も見落とさないように。
それはもともとこの商団に雇われている、護衛役の男も同じ。
辺りはしんと静まって、何かが近づいてくるような気配は一切なかった。
この商団は、そもそも人数がそれほど多くはない。
あくまでも行商、とでも言えばいいのか、商品の仕入れだとか、そう言ったことを行っているからだ。
だから荷物の大部分は商品であり、人は実は護衛を入れても5人しかいないような有り様だった。
依頼主である、代表の男と、おそらくはその補助役なのだろう若い青年。あとは荷下ろしや荷運びを請け負っているのだろうそれなりに鍛えていると思わしき男性が2人だ。それと護衛の男。
つまり男しかいなかった。
いかんせん護衛が出来る者は一人だけしか雇っていなかったので、その補助に一人から二人護衛について欲しい。それが依頼内容だった。
場所はデアミノイスまでとなっている。
間違いなくこの山越えの最中の盗賊、あるいは山賊を警戒してのことなのだろう。実際に遭遇しているのだから、間違った判断だとも思わない。
報酬も高くもなければ安くもなく、問題がないと言えるようなものだった。
受けるのを躊躇ったのは、結局つまり、こんなことになるような気がしたからだ。
アーディと他者との接触は、なるべく控えた方がいいような気がしていた。
アーディはなんと言えばいいのか、てらいなく言ってしまうなら、少し、どうしても常識がない。
世間一般の感覚とズレていると言い換えてもいい。
それは彼自身の立場を思えば当然のことで、それで庶民生活や感覚に詳しいと言われる方が信じられないと言っていいだろう。
だけど、そんな彼を、俺は出来るだけ人と接しさせたくはなかったのである。
現に今もこんな状況になっていて。
今のところ、誰も何も言ってはいないが、護衛の男も、依頼主の男も、他の男たちも皆どことなくアーディに対して不信感を抱いたらしいことがわかる。
何となく不安そうな気配が漂ってきていた。
それらは決して俺に向けられているわけではないが、居心地のいいものではもちろんない。
なんとも言い難い気まずい空気の中を、周囲を警戒しながら、俺はただひたすらに、アーディを待つことしか出来ずにいたのだった。
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