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41・護衛依頼③

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 護衛依頼はありがちなもので、これから首都を経由して、デアミノイスに向かうのだという商団の、主に首都から向こう、山越えの際の山賊対策だということだった。
 魔の森は経由しないので、魔獣を警戒してのものではない。
 首都まで、あるいは首都からでもよいということだったのだが、アーディが、

「え? 気にしないでいいよ。デアミノイスまで行こう」

 というので、山越えも付いていくことになった。
 依頼料とは別に、途中の宿代なども出してくれるという護衛依頼は、そこまで割が言い訳でもないけれど、助かるものであることは確かで。

「まぁ、アーディがいいんならいいけど……」

 と、俺も引き下がって受けることにした。
 なお、首都の中では丸一日、自由にしていいことにもなっている。
 それを知ったアーディは、

「あ、じゃあ一緒に街を見て回ろう!」

 なんて、弾んだ声で言っていた。
 その顔が可愛いなんて思ってしまった辺り、俺はもうもしかしたらアーディを拒絶できなくなっているんじゃないか、なんてちらと思ったが、今は考えないことにする。
 アーディの認識阻害とやらは上手く機能しているのだろう、あからさまに非凡なアーディを見ても、依頼人も協会の係の者も、誰もあからさまに反応を示したりなどしなくて少しだけほっとした。
 もっとも、今までの町や村の人たちも皆、同じ様子だったのだけれど。
 ただ、護衛依頼となるとどうしてもずっと依頼人たちと一緒にいることになる。
 そこが気にかかるのは確かだった。
 二人で移動するなら、二日もあればつく距離ではあったのだけれど、首都へは比較的ゆっくりとしか移動できない商団と一緒だったのもあり、三日ほどがかかってしまった。
 とは言え、着いたのは朝、昼までもまだ時間があるぐらいの頃。
 途中、立ち寄った村で一泊と、野宿を一泊挟んでいる。
 アーディに野宿……というのが気にならないでもなかったが、これが初めてというわけでもない。
 首都に着いたら依頼主は、予め聞いていた通り、

「では、明日の昼過ぎに出発いたしますので、西門へいらして頂けますか?」

 と尋ねてきた。
 予定通り、これから明日の昼過ぎまでは別行動ということだ。
 俺はこくりと頷いた。

「わかった。明日の昼頃にはその辺りにいるようにしよう」

 少し早めの時間で答えると、依頼人はどこかほっとしたように微笑んで。

「遅れないようにだけご注意ください」

 そう念押しして、自分たちの用事にだろう、慌ただしく去っていった。
 残されたのはアーディと二人。
 朝の、活気づいた首都の街並み。
 なんとなくアーディと顔を見合わせる。
 アーディがにこっと眩しく顔を綻ばせた。

「じゃ、僕達もいこっか」

 満面の笑みだ。
 どこに行く? なんて聞いてくるアーディといくつか言葉を交わしながら、

(そういえばこんなに大きな街を一緒に歩くのは初めてだな)

 なんてことを、俺は心の片隅でぼんやりと思っていたのだった。
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