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28・説得を試みる①

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 俺は溜め息を吐いた。首を横に振る。
 そして、しょんぼりしたままのアーディにどうしても胸が痛んで。だから。

「……別にアーディと一緒なのが嫌だというわけじゃない」

 そう、正直な心情を、吐露してしまっていたのだった。
 そうだ、嫌なわけではない。なにせアーディのことは好ましく思っているのだ。共に過ごす時間は、むしろ心地よくさえあって。だからこそ駄目だというのに。
 だけどアーディは、先程の俺の応えだけで、ぱぁっと花が開くように本当に嬉しそうな笑みを浮かべた。

「ほんとに?! よかった! じゃあ、いいでしょう?」

 にこにことそう言われても、何も、じゃあ、ではないし、何もよくはない。
 何故なら問題はそこにはないのだから。
 俺はひとまずとばかり、溜め息を吐きながら、思いついたことで抵抗を試みてみることにする。

「お前は皇帝だろう? 国にいなくていいのか」

 まずは彼自身の立場を口に乗せた。
 なにせ皇帝陛下だ。旅が出来るような身分ではないはず。

「段取りは付けてきたよ。流石にずっと、国を空けるわけにはいかないからね。僕の後継のトゥールはまだあんなに小さいし。でも、まぁ、行ったり来たりすれば、なんとかなるかと思って。ほら、僕転移魔法使えるし!」

 つまり、旅に出っぱなしというわけではなく、転移魔法を使用して、国には頻繁に帰るつもりであるということなのだろう。
 だからこその可能な限り。

「俺は冒険者だ。教会から依頼を受けた、魔獣や魔物の討伐、もしくは今回のような薬草の採取を中心に選んでいるが、当然、戦闘が多くなる。キレイな旅にはならないんだぞ」

 おそらくアーディはあの王宮で生まれ育って、外になど出たことはないはずだ。少なくとも、毎夜話していた時に聞いていた限りでは、旅などというものはほとんどしたことがないようだった。
 なにせ転移魔法が使えるのだ。それを駆使すれば旅などというものは早々必要とならない。
 流石に視察や、外交の関係などで、国から出たことがないだなんていうわけではないようだったけれど。
 それでも、そういう王族という立場を外しての行動など、したことがないはず。

「勿論! わかってるよ? でも君と一緒なんだ。なんだってして見せるさ。それに僕はなかなか使えると思うよ。なにせ魔法や魔術に関しては、自分で言うのもなんだけど、チートみたいなものだし、さっきみたいな薬草も、ある程度なら見分けられる。君の助けになりこそすれ、邪魔になどならないはずだ」

 自信満々にそんなことを言いきるのは、本当に自信があるからなのだろう。
 俺はその様子に、きゅっと険しく顔をしかめた。
 実際、アーディの言うことは間違っていないとは思う。魔法魔術に関しては、本当に長けているのだろうし、そもそも転移魔法が使えるというだけでもある意味大変に便利なのだ。
 知識だってきっと俺よりも豊富だろう。
 だが、旅というものは、そんなに単純なものではなかった。少なくとも俺はそう思っている。
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