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25・薬草の採取
しおりを挟むナウラティスは大国で、その周りには数多くの小国がひしめいている。
ナウラティスの首都から一番近い国境となると、その先にある国はカナドゥサ公国だった。
元はナウラティスの一部であったという属国である。
国境からカナドゥサの首都までは、魔の森を抜ける必要があった。カナドゥサは魔の森に分断されているような国だからだ。
必然、冒険者の活動も、ナウラティス国内よりは活発で、当然治安も、何故か比例するように少しばかり悪かった。とは言え、もっと別の場所にある国などからすると比べ物にならないけれど。
ナウラティスが良すぎるだけなのだ。
夜だろうが昼だろうが早朝だろうが。真夜中だって、夜明け前だって、森や人気のない街道を歩いていて、一切襲われない国など他にはない。
それぐらいあの国には、盗賊や山賊などが存在しないのだ。
当然、そんな国から一歩でも出てしまうと、どんな国でも治安など悪く思えることだろう。
カナドゥサは結界の外にあるだけあって、当たり前にそういう者たちが存在していたので。
辿り着いた首都の冒険者協会でも、ナウラティスとは比べ物にならないぐらいの量の依頼が存在していた。
その中でめぼしいものを選んで、先日抜けたばかりの魔の森へと取って返す。
そこの周辺での討伐と、魔の森内にある薬草の採取。
俺が好んで受ける依頼の一つだった。
目的というか依頼内容が二つ並んでいて、少しばかり面倒なのだが、その分、報酬は割高だ。
いずれにせよ魔の森まで行くのなら、ついでは多い方がいいだろうと、そんな単純な考えから。
実は薬草を見分けるのはあまり得意ではないのだけれど、面倒になったなら、めぼしいものを全部取ってくればいい。
もし違っていても、討伐さえ済ませていれば、討伐分だけでも報酬は受け取れる手はずにもなっていた。最低限それぐらいの確認はしている。
討伐はとくに苦も無く終わらせることが出来た。
魔の森から出てきて、村の近くに留まっている魔獣の殲滅。何も難しいことではない。
問題というなら、薬草の採取の方で。
魔の森に入ったはいいが、案の定、俺はどれが目的の薬草なのかわからなくなっていた。
「えぇと、確か、傷薬? に使う、ものだったような……」
名前さえ曖昧だ。形状も勿論。
もう少しちゃんと確認してから向かえばよかった。今更後悔しても、例えば一度冒険者協会まで戻るというのも面倒で。
まぁいいかと開き直る。
適当にとって、違っていたら他で売ればいい。
魔の森での採取品というだけで値段は付くのだ。
目的の薬草が採取できなかったとしても、その分だけ報酬を減らされるだけの話。
適当な草を適当に取っていこうと、身を屈めた時だった。突然、背後に現れた気配に、反射的にばっと振り向く。
「ふぅん。薬草か。あ、その右のは値段にならないよ」
俺の背後から俺の手元をのぞき込んでだろう、そんなことを言い放ったのは、少し前までは見慣れ始めていた存在。こんな所にいるはずのない男だった。
「アーディ……」
呆然と名を呟く俺にアーディは、にこりと笑って。
「うん、久しぶりだね、ソーマ」
そう、何でもない顔で挨拶を返してきたのだった。
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