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1・ナウラティスの魔女
1-5・リオルの子供と青年
しおりを挟むリオルは子供など育てない。
否、このような環境では育てられないと言った方が正しいだろうか。
生んで一年。最低限の授乳期間が終われば、すぐに希望する先へと養子に出した。
その後一切会いに行こうともしない。とは言え、子供本人が訪ねてくることまでは拒んだりはしないのだけれど。
おかげでこの屋敷にはこれまで幾人も生み続けた子供など一人として残っておらず、いるのは精々、生れて一年に満たない赤子のみ。
つまり屋敷の中には他はリオルと、彼の相手をする人間、後は赤子の面倒を見る者しか存在しなかった。
幸か不幸か、子供の引き取り手には困らなかった。
あれほど無茶苦茶な性質を擁していても、否、だからこそだろうか、リオルに惹かれる人間は後を絶たず、だが、リオルが誰かひとり特定の相手にものとなることなどない。
リオルに堕ちた人間の中には、せめてとリオルとの子供だけでもと望む者がいて、そうでなくとも、リオルの存在そのものと出自ゆえ、リオルが産み落としたというだけでも価値があった。
リオルの出自。つまり、大国の王家の血を引く存在を欲しがる人間が、腐るほどいるということである。
勿論、可能な限り相手は厳選してはいるのだが。
青年はそれらも気に病んでいて、せめてと、リオルの顔を見に来るついでに必ず、その時に屋敷に残っている赤子の顔も、見ていくようにしているようだった。
アルの案内で子供部屋として宛がわれている一室へ入室すると、子供の面倒を見るために雇っている侍女が、にっこりと微笑み、気付いて子供を青年へと差し出した。
小さく、温かな体温。それだけで愛しく、慕わしい。
青年は自分の指をそっと赤子の口元へと持っていき、本能的に吸い付くがまま、自身の魔力を吸わせてやった。
本来はこうして母親以外の魔力を子供に与えるのは決して一般的ではない。余程でない限り、子供の両親が嫌がることの多い行為だった。だが、リオル本人はそう言ったことを全く気にしなかったし、青年もそのことを知っていた。
だからというわけではないが、これは結局のところ、青年なりの言祝ぎである。
青年に出来ることなど、これだけなのだと言ってよかった。
「この子の引き取り先は?」
「すでに決まっています」
「そう」
確かめると、アルがすかさず応えを返した。いつも通り、生まれる前から決まっているのだと、そう。
青年は寂しそうに呟く。
青年自身、リオルの生んだ子を全員引き取るだなんてことは流石に出来ない以上、これは仕方がないことだとはわかっている。だが、実の母親を知らず育つのだろう自身の孫が不憫でならず、その孫をそういう境遇に置くのが自身の子供であることが、何ともやるせなくて仕方がなかった。
そんな青年を見ていたアルが静かに口を開く。
全くいつも通りの顔をしていた。
「陛下」
そんな呼び名で青年を呼ぶと、青年は、ははと力なく、苦く笑った。
「もうとっくに陛下じゃないよ。君はいつまでそう呼ぶんだい」
かつてそう呼ばれる立場であったことは確かだ。だがそれももう何十年と前の話で、リオルを産んだ時にはすでに、そのような立場でなどなかった。
当然、リオルとそう年の変わらないアルが生まれた時であってもそうだ。
「ですが貴方はいつまでも陛下であり続けますよ」
かつてその立場であったという事実だけで、死ぬまでその称号が付きまとう。いくら代替わりしたって関係がない。青年はそういう存在である。
艶やかな銀の髪と、淡い水色の瞳。リオルと全く同じ顔。否、リオルよりもより色素が薄い。違いというならその程度、ほんの僅かな瞳の色の濃さ程度か。
魔力量が多ければ多いほど、色素が薄くなる傾向のあるこの世界で、つまり青年はリオルよりも少しばかり魔力量が上。
今もってこの近辺で、目の前の青年以上の魔力量を誇る存在は、現れてはいなかった。
この世ならざる美貌。少年めいた見た目に反して、青年と断言できるのは老成した雰囲気のせい。
実際にそれだけの年数を生きている。
由緒ある血筋と、確かなる能力、そして存在感。だからこそ、つきまとう尊称だった。
それは皇帝だった、青年の伴侶よりも。つまり、青年自身の立場としては、あくまでもその伴侶にしか過ぎなかったのに。
「いずれにせよ、陛下。この子の引き取り先は、いつも通り僕達がしっかり吟味しております。何かあれば真っ先に貴方に助力を願うとお約束します。ですから」
それほど、気に病むことではないと続けるアルに、青年は泣き笑いのような表情をして見せる。
「君たちのことは信頼しているよ」
青年はただ、それだけを口に乗せた。
ひとしきり赤子に構った青年は、躊躇を断ち切るようにして帰っていった。青年を待つ彼自身の伴侶の元へと。
「あの方もいつまで経っても変わらない」
割り切れないまま、罪悪感を抱き続けている。
呟いたアルは、しかしすぐに自重した。
「それは僕も同じか」
リオルから離れられない。たとえリオルがどんな性質を持っていて、自身がそれを堪えがたく思っていたとしても。
「さて、あの客の始末もあったな」
とは言え、ただひたすら休ませて、動けるようになったら屋敷から追い出すだけである。
だが、あの部屋にあのまま転がしておくわけにはいかない。あそこはリオルの寝室なのだ。
そんな場所に、邪魔者とも言えるような客など、置き続けるはずがなかった。
その後は、きっとジェーラも搾り取られるだろうから、そうしたら次に呼ばれるのはアルか、それとも。
今、自身が保有している魔力量を確認して、さてどれぐらいの間、相手を務め続けられるだろうかと考えてみる。
きっと全ていつも通り。
なにせリオルは底なしで、いくら願ってもアル一人で足りるはずなどないのだから。
アルは苦く、やるせなさを噛みしめながら、リオルのいるだろう寝室へと足を進めた。アルもまた、そうするしか出来なかった。
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