47 / 52
46・レシアについて②
しおりを挟むしばらくして、ようやくシェスは迷いながら話し始めた。
「ミーシュ様は……この世界のことを、何も、お分かりではありませんよね?」
まずは、と言った風に確かめられ、俺は躊躇いながら頷いた。
シェスの言う通り、俺は何も知らなかったからだ。
「うーん、そうですね……まずは前提からお話した方がいいですよね、うん。このまま少しお待ちください。まずは地図を用意してきます」
言いながらシェスが立ちあがり、止める間もなく部屋を出ていった。
「あ……」
一人残された俺はなすすべなく、ただそのまま待っていることしか出来ない。
とは言え、なんとなく反射的に止めようとしてしまったが、そもそも、話すのに何か必要だというのなら、用意してもらうことはただただありがたいことであることは確かで。なら、止めるようなことでもないかと、おとなしく待つことにした。
目の前に用意されているお茶に口を付ける。
喉を湿らせる程度、僅かだけ飲み込んだ。
とても香りがよくて、多分、高級な物なんだろうなと、なんとなくぼんやりそんなことを考えた。
否、そもそもこの家自体もやけに広いし、昨日おからずっと、身の回りの世話を焼き続けてくれている使用人らしき人達の多さも、俺からすると、信じられないぐらいなのだ。
でも、グローディは確か、辺境伯、だとか言っていたはずだ。
辺境伯というと伯爵。つまり貴族。だからこその使用人の多さと、家の広さなのだというのはシェスに聞いている。
そして俺はそんなグローディの伴侶、辺境伯夫人なのだと。
だけど俺が知っていることはそれだけだった。
パンレソイ辺境伯と言っていたか。
ここが異世界で日本ではないということも言っていたと思うが、では俺は今、いったいどこの国にいるのか。
それさえまだ、聞いていなかったなと思い至った。
レシア様のことどころではない。
きっと、だからこその地図なのだろう。
多分シェスはレシア様のことと一緒に、きっとこの世界のことそのものについても教えてくれるはずだ。
魔力があって、魔法や魔術が存在している異世界。
それは俺には全く何もわからない世界だった。
そんなことを取り留めもなく考えているうちに、パタパタと軽い足音を立ててシェスが戻ってくる。
何故か、部屋へと入ってくる前に、俺にはシェスが近づいてきているのがそれなりに距離のある所にいただろう時から察せられた。
俺はそれを疑問にも思わず、扉を見る。
「すみません、お待たせしました」
そう言いながら部屋に入ってきたシェスは、幾冊かの本と、長い筒状に丸められた紙のようなものを抱えていた。
5
お気に入りに追加
356
あなたにおすすめの小説
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】
華周夏
BL
かつての恋を彼は忘れている。運命は、あるのか。繋がった赤い糸。ほどけてしまった赤い糸。繋ぎ直した赤い糸。切れてしまった赤い糸──。その先は?糸ごと君を抱きしめればいい。宿命に翻弄される神の子と、眷属の恋物語【*マークはちょっとHです】
狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる