記憶喪失になったけど、伴侶だという人物に一目惚れ（？）したのでこのまま俺に惚れてもらおうと思う。

27・いつかの夢①

　気が付くと俺は夢を見ているようだった。
　俺は見たことがある部屋にいる。昨夜、気が付いた時にいた部屋だ。
　夢の中の俺はたったいま目が覚めでもしたかのように、パチと驚きながら瞬きをしていた。
　俺を気づかわしげに覗き込んできたのはグローディだ。

『レシア様？ どうかなさいましたか？』

　昨夜と同じようにそう俺に問いかける。
　レシア様。また、レシア様。
　グローディのかっこよさに見惚れる俺をクンと下から誰かが引っ張る。

『お母様？ 早く次を読んで下さい』

　見下ろした子供は、昨夜、俺の周りにいた6人とは、似てはいるけれど、また違っているように見えた。
　俺はその子供を膝にのせて、子供を抱えるようにして絵本を読んでいたらしい。

『母様？』
『ねぇ、早く』

　両脇にも子供がいる。近くにいる子供は3人らしい。
　その中で一番大きい子供に、どうしてだろう、シェスの面影が重なる。みんな似た顔をしているにもかかわらず、一番大きな子供にだけ。
　俺のお腹は、今よりもさらに大きく膨らんでいた。
　夢の中で、俺は混乱している。
　わけがわからないと、不安に思っている。
　同じだと思った。昨夜の俺と同じ。でも違うこともある。

『レシア様？』

　気づかわし気なグローディのことを、夢の中の俺もかっこいいと思っている。でも。
　俺のように、心ごと奪われて、ドキドキして、好きだ、なんて、思っていないことがどうしてかはっきり分かった。
　夢の中の俺が覚えていた感情は、そんなものよりも不安なのだ。
　自分自身のことが何もわからない不安。
　目の前のかっこいい男性も誰かわからず、自分の近くにいる子供のこともわからず、情けない顔をした俺に、グローディが驚いて焦った様子を見せた。昨夜とは全く違う様子だ。

『？！ レシア様？！』

　こんな風に焦るグローディは初めて見るなとぼんやり思う。
　でも、夢の中の俺はそれどころじゃないようで。

『母様！』
『お母様？』

　子供達も不安そうで、これもまた、昨夜との違いを感じた。
　俺はそんな彼らに何故かひどく申し訳ないような心地になっているようだった。

『あの……』

　そして、ようやく口を開いた俺の声は小さく、おそるおそると言った様子で。

『あなたは、誰ですか？』

　俺がそう告げた瞬間、その場が凍り付く。
　誰も何もわけがわかっていないようだった。
　夢の中の俺自身も、自分のことさえわからず不安で堪らなくて、グローディも子供達も混乱していて。昨夜との違いを痛感する。
　何もかもが違うなと思った。
　そしていずれにせよ何もかも。わけがわからないままだった。