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9・寝室で
しおりを挟む足を踏み入れた寝室だというその場所は二間続きとなっており、廊下から入って手前の部屋は寛ぐためなのか、応接スペースのようなものが配置されていた。
だが、グローディはそこを素通りして、更に奥の扉へと俺を促す。その先にあった部屋こそ、正しく寝室で、部屋の中で一番目立つのは、大きな天蓋付きのベッドだった。
むしろそれ以外は何もないとも言えるほど、ベッドだけが占めている。
こんな、本当に寝ることしか出来なさそうな部屋で、魔力を注ぐ? それはいったい、どうやって。
「グローディ?」
急に不安になって、傍らを振り仰いだ俺に、グローディはにっこりと笑みを返した。
ああ、そう言えばグローディは背が高いようなのだ。否、俺が小柄なのだろうか、どうにも身長差があるらしい。抱きしめられると、俺の頭はちょうどグローディの胸の辺りになる。
すっぽりと包まれるのは、だけど心地よくて。どうしてかうっとりと目を閉じてしまうのだ。でも、それは今ではなく。
「どうしました、ミーシュ。何か不安ですか?」
優しい声音で訊ねられ、俺は首を横に振った。不安。というのとは、少し違う気がした。あえて言うなら恐怖、なのかもしれない。
此処が寝室だからなのだろうか。どうしても少し、怖いと思ってしまう。
「不安、じゃなくて。でも、」
寝室で、魔力を注ぐ。
先程、それが良いと言ったのは俺だ。だって聞きたくなかった。俺のことなんてグローディの口から、何も聞きたくなかったのだ。だからそちらがいいと、言ったのだけれども。
同時に、魔力を注ぐというのが、どういうことなのかはいまだに何もわからないままだった。
「では、怯えていらっしゃる? ふふ。本当にお可愛らしいですね。大丈夫ですよ。何も心配は要りません。ただあなたは私に身を委ねていらっしゃればよいのです。気持ちのいいことしかしませんから。ね?」
宥めるような甘い声音でそう告げられ、俺は首を縦に振った。気持ちのいいこと。それはいったいどんなことなんだろうか。ふと、頭をよぎったのは、おぼろげな記憶。夢の中のように曖昧で、でも忘れられないぐらいに気持ちよかった。
グローディは俺の上にいて、俺を揺さぶっていて。そうだ、あれもきっと寝台の上でのことのはずだ。
とても色っぽくて、かっこいいグローディが、俺の腹の中にいて、俺は腹をかき回されると本当に気持ちよくて堪らなくて。
思い至って、どきどきと胸が高鳴っていく。期待なのだろうか。わからない。でも。
「グローディ……」
そう、グローディの名を呼ぶ俺の声が、何処か、媚びるように濡れていた。
グローディが微笑む。
「ミーシュ」
俺を呼んで。
俺を見つめる、グローディの瞳には、あのおぼろげな記憶の中で見たのと同じ滴るような欲が覗いていて。
「ぁっ……」
慄くように小さく上げた俺の声は、ゆっくりと降りてきたグローディの唇の中へと、吸い込まれていったのだった。
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