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8・制御できない嫉妬

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 部屋を出た先にあったのは、やはり高級そうな廊下。
 今更ながら、この場所はいったい何なのかと気になってくる。
 物凄いお金持ち、とかだったりするのだろうか。むしろ王侯貴族だとか言われた方がしっくりきそうだ。まるで貴族の屋敷かお城のような。
 思わずきょろきょろと周りを見回してしまう俺を、グローディはひどく微笑ましそうに見つめていた。
 すぐにそれに気付いて、恥ずかしくなる。
 いい年して子供みたいだとでも思われただろうか。いい年、というか、そもそも俺は今、幾つなのかさえわからないのだけれど。

「は……早く行こ」

 誤魔化すように促すと、グローディはくすと笑って、でも何かを言うことなくそっと俺の腰を抱いて引き寄せた。

「こちらです」

 なんだかひどくスマートに、いやに手慣れた様子で俺を導いていく。
 こんな風に、俺以外をエスコートしてきたのだろうかと思ってしまって、俺はまたしても少し嫌な気分になった。
 グローディにこうされるのは俺だけでありたい。自分でも理解できない執着であり独占欲だ。
 何故なのだろうか。さっき初めて会ったばかりの相手なのに。でも好きで。好きで。
 
「ミーシュ? また何か不安になりましたか?」

 グローディは敏感に俺の様子を察して、また柔らかくそう聞いてくる。
 俺は首を緩く横に振って、すりとグローディにすり寄った。

「大丈夫。なんでもない。なんでもないけど、早く」

 グローディが俺を気遣ってなのだろう、ことさらゆっくりと歩いてくれていることはわかっている。俺の負担にならない移動速度。だけど今はそれがむしろなんだかもどかしかった。
 向かう先は寝室だと言っていただろうか。ならば早く連れて行って欲しい。そして早く魔力を注いでほしい。それがいったいどういう意味なのか分からないけれど、目的があるのなら早くそれをこなしてしまいたかった。
 だって俺はどうしてか先程から、ちくいち細かいことで嫌な気分になるばかりなのだ。
 そんな自分を、俺は俺自身でさえ持て余しきっていて。
 どうしてこうなるのかもわからないけれど、俺はグローディとは離れたくないし、グローディのこれまでのことなんて、ちっとも欠片も全く持って知りたいとは思わなかった。
 ただ、今、此処にいる俺のことだけを考えていて欲しいのだ。
 他のことになど目を向けずに。ただ、それだけであるはずなのに。

「グローディ……」

 力なく名を呼ぶと、俺を支えるグローディの腕に、ぎゅっと力が籠ったような気がした。

「そうですね、急ぎましょう。すぐそこですよ」

 グローディの言うとおり、寝室だと示されて入室を促された部屋は、確かにあっという間に辿り着くような近さだった。
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