悪役王妃(♂)は後宮で国王陛下に愛される

愛早さくら

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01-1・物語を始める為に

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 この世界で唯一と言っても過言ではない大陸、グラスフォードの南部に位置する、大陸中でも五指に入る大きさの帝国、ナウラティス。
 それを治める皇帝と皇后の6番目の子供、第3王子として生を受けたのが俺、ディリアフィロ・ジルサ・ナウラティスだ。
 ちなみに6番目と言ったが、実際に両親の実子は俺を含めて三人で、他の三人は養子である。なにぶん両親は少しばかり人がいいというか、責任感が強いというか……特に母は抱え込みがちで、子供達を養子にすると決めたのも母なのだとか。
 そんな母に、兄妹の中でも何もかもそっくり同じだと言われているのが俺、ディリアフィロ、ことディリーだった。
 ディリーというのは愛称だ。
 この世界の慣習、というか単純に名前が長いからだと思うのだけれど、愛称で呼ぶことが多いから。勿論、呼びやすい短い名前の場合はそのままなのだが、特に貴族ともなると、そうではない傾向が強い。曰く、

『名前には意味が込められている』

 からだとのことで、俺の名前は……何だったか。確か希望だとか、清浄だとか、清いだとかそういった意味を持つ古代語から来ているのだった気がする。
 とかく美しいものを表すのだと。
 正直な話、この名前を付けた母に聞きたい。なんで自分と同じ顔を持つ子供に、『美しい』だとかいう名を付けたのかと。
 まさか自分のことを美しいとでも思っているのだろうか、否、母のことだから、そんなことは無いとは思うが。
 実際に容貌という意味においては美しいのは間違いない。
 生まれてから19年。疾うに見慣れているはずの自分の顔なのにもかかわらず、いまだに時折、鏡に映った自分の顔や、自分とそっくりな母の顔を見て、

(キレイだな)

 と、思うからだ。
 別にナルシストではない。事実である。
 そして今、俺は、そんな美しい母に、眉をしんなりと下げて、確かめられていた。
 何をって? それは……――。

「本当に行くのか? 考え直す気は」

 何度、確かめるつもりなのか。この期に及んでまでそう言い募る母に、俺はうんざりとした気持ちで溜め息を吐く。

「母さん。何度も言っただろう? ここで取りやめにするのも、なんだか負けた気がして悔しいって」
「負けたも何も……構わないじゃないか。お前の安全には変えられない」
「大丈夫だって。それとも母さんは、俺を信じられないのか?」
「お前を信じていないわけじゃない。でも、」
「それに母さんなら知っているだろう? この世界に強制力なんてないんだってば!」

 俺の知っている通り・・・・・・・になるとは限らないのだから。
 少しばかり語気強く言い放てば、母は不満そうながら口を噤んだ。
 だけど眼差しが、全く納得できていないと告げている。
 ああ、もう、この時間のない時に! と、俺は苛立たずにはいられなかった。
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