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14・朝の眩しさ②
しおりを挟むラセア殿下がパチリ、目を瞬かせて、かと思うと次いで、かぁ……っとそれまで以上に頬に朱を走らせる。
なんだこれ、恥ずかしい。
昨日ぶり、昨日の夜、わかれたばかり、なのに。
「あ! ぁ、ああ、ああ、お、おはよう!」
挨拶!
失念していたと言わんばかり、慌ててラセア殿下もそう僕に言葉をくれた。
そのままあたふたと口を動かす。
「ゆ、昨夜はよく眠れただろうか? 本当は今日も、休んでいた方がいいとは思うのだが、」
「いいえ! よ、よく眠れましたし、充分休ませてもらいましたから……」
何かしなければならないことがあるのならそれをする、きっと出来る。
もとよりそう言ったことを、僕に確かめるつもりだったのだろう、取り立てて様子以外には何もおかしくないラセア殿下からの気遣わし気な確認に、僕はつられるようにあたふたしながら言葉を返した。
僕とラセア殿下との婚姻はもうすぐだ。その為の準備が色々と予定されていて、それらには決して余裕なんてないはずだった。
「そ、そうか、なら、その……すまないが、今日からさっそく忙しくなると思う」
しんかり眉を下げて本当に申し訳なさそうに告げられる。
「あの、いえ、その……はぃ、大丈夫、です」
僕は小さく頷いた。
問題ないと、そう。多分きっと、全くそうは思えないだろう様子で。
ぽつりと、沈黙が落ちる。
僕が案内されたのは、僕より先に座っていらっしゃった、ラセア殿下の向かい側の席。
言葉を交わすのに何の不自由もない程度しか離れていない僕とラセア殿下の間、テーブルの上に、僕とラセア殿下のぎこちない様子になど全く構わず、給仕係が手早く朝食の用意を整えていった。
まるでそれを待ってでもいるかのように沈黙が落ちる。
否、すっかり準備が整え終わってもしばらくはそのまま。
僕達は二人して頬を赤く染め、なんとなくそわそわと、視線を逸らし合い続けてしまっていた。
何か、僕から言った方がいいのだろうか。
迷っているとようやく、ラセア殿下が小さく一つ息をのむ。
「じゃ、じゃあ、あの……朝食を、いただこう、か……君の口に、合うといいのだが……」
パンと、サラダと、スープと、そんな風にテーブルの上にあるのはごくごく一般的な朝食のメニュー。
多分きっと、口に合う、合わないも何もない。
そもそも確かもとより隣り合っている国同士、ルティル王国と、デアミノイス王国とでは、食文化に大きな違いなどなかったはずだ。
それは味付けの傾向なども同じ。
加えてラセア殿下が摂っていらっしゃる食事が、おかしなものであるはずもなく。
現に昨日、口にした夕食もちゃんとしっかり美味しく頂くことが出来ている。
とは言え、長年慕わしく思ってきたラセア殿下を前に緊張してしまって、碌に味がわからなかったのはともかくとして。
それは多分今も同じだろう。
「は、はいっ! あの……どれも、美味しそう、です……」
勢い込んで返事をしようとして、結局、僕の声は小さくしぼんだ。
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