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第二章・ペーリュ視点
2-42・私の全て①
しおりを挟む私はリーファを寝やすい格好へと着替えさせると、そっとその上へと覆いかぶさる。
かわいいリーファ。愛しいリーファ。私のリーファ。
私だけの、リーファ。
今は私の子を孕んでくれている。なのに。
これはただの事故だ。誰かの作意が絡んでいるようなことではない。
なのに、この間の視察といいどうして急にこんなにも、リーファにばかり試練のようなものが降りかかるのだろうか。
私は私達のことなど全く一切、何も顧みたりしていないのだろう神を、ともすれば恨みそうになった。
彼の存在が、こんな些末時になど構っていたりしないだろうことがわかってはいても。
何かに縋りたくて、虚像のような宗教に傾倒する人間の気持ちを初めて理解する。
私はリーファを守りたかった。守れている、つもりだった。
なのに最近はちっとも守り切れてなんかいない。
視察先では、リーファに対する言葉での暴力を見逃し、その果てには連れ去りまで許してしまった。
そして今回の事故である。
『義兄上』
花のようなリーファの笑顔がまぶたの裏に思い浮かぶ。同時に、
『ペーリュ義兄上』
そう、あり得ない呼称で私を呼んで、私へと向けられた恐怖と嫌悪の眼差しを。
リーファへと他でもない私自身が、恐怖と嫌悪をもたらす存在となってしまった。
それがこんなにも恐ろしいことだったなんて。
胸が痛んで仕方がない。
リーファを苦しめたくなんてなかった。どのような物からも、守り通して見せたかった。
「ああ、リーファ。すまない」
すまない。
そっと触れたリーファの肌は、いつも通り、私の掌へとしっとり馴染んで、その変わらなさに、少しだけ心が慰められる。
何も変わらない。何も変わらないのに、今、リーファを目覚めさせることは出来ないのだ。
リーファに、
『義兄上』
そう、呼んでもらうことが出来ない。
たったそれだけのことなのに、予想よりもはるかに、私の心は暗く沈んだ。
私は痛感する。
私にとってリーファが、どれほど大切な存在だったのかを。
かわいいリーファ、愛しいリーファ、私のリーファ。私の全て。
私はリーファを慈しむためだけに存在し、リーファを守ることだけにこの身を捧げ、リーファがここにいるがゆえに、私自身もまた此処にいた。
そっと、眠るリーファへと唇を寄せる。
触れ合った皮膚からも魔力を注ぎ込んで。
「ん、ふ、……」
おそらくは反射でなのだろう、微かに上がったリーファの声は、私にとってはただの甘露のようなのだった。
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