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第二章・ペーリュ視点
2-39・私に出来ること④
しおりを挟む曽祖父の言葉に、だけどリーファが戸惑っている気配がこちらにも伝わってくる。
「あの……兄様、それはつまりペーリュ義兄上が、」
「リーファ」
多分、確かめようとしたのだろうリーファの言葉を曽祖父が遮った。
「今は、ペーリュだとかラーヴィだとか、それは考えなくていい。これまでのことも、思い出さないようにして、今、お前の心が感じたままで聞くといい。それを告げたのはリーファの義兄上だ。それが全てだよ。わかるね?」
曽祖父は何一つ嘘などついていなかった。ただ、リーファに思考を停止するよう促しただけだ。そのままを受け止めればいいのだと、そう。
リーファは、ややあってから頷いた。
「わかり、ます……僕の、義兄上」
また、リーファの声には涙が滲み始める。
「そう、リーファの義兄上だ。リーファを愛している。リーファのことだけを、想っているんだ。そんなリーファの義兄上が、お前を苦しめたくないと、リーファが苦しいままでいるぐらいなら、リーファは眠っていた方がいいんじゃないかと、そう言っているんだ。リーファ。お前はどうしたい?」
曽祖父の声は、慈しみに満ちていた。
リーファは、今度はそのまま泣き出すことはせず、だけど随分経ってから、小さく言葉を返し始める。
きっとリーファなりに考えたのだろう。今の自分と、自分を想う義兄上のことを。あるいは想像してみたのかもしれない。これから自分がこのまま過ごすとどうなるのかを。
「義兄上の……言うとおりにします。だってそれは義兄上が、僕を想っておっしゃって下さったことでしょう? 何より僕には、堪えられない……義兄上……」
リーファは声はひどく揺れていて、そして結局は泣き出してしまう。
リーファはきっと自覚している。自分が強くはないことを。今、リーファをくり閉めている記憶と認識の齟齬に、自分が堪えられないことを。
そしておそらくは。私を、無条件で信頼してくれてもいるのだろう。
「ああ、リーファ。大丈夫、大丈夫だよ。きっと次に目が覚めた時には、すぐに全部が元通りだ。お前はこれ以上苦しまなくていい。リーファの義兄上に、全てを任せよう。ね?」
柔らかな曽祖父の声に、リーファはもうそれ以上は何も答えず。だけどそれは、言葉にならないからなのだろうと思った。
胸が痛い。リーファが泣いている。
ああ、リーファ。
私が必ずその苦しみを、取り去ってあげるから。リーファ。
だけど。同時に、きっと、私に出来ることなんて、リーファをこの腕の中、捕らえ続けることだけなのだろうことがわかっていて、それが何だか悔しくて堪らないのだった。
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