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第二章・ペーリュ視点
2-38・私に出来ること③
しおりを挟むラーヴィも同じくとどまった辺り、私と同じ気持ちなのだろう。
しばらくして、リーファは目覚めたようだった。
「ぅうん、ん……あれ? 兄様?」
ぽやっと寝起き特有の声で、リーファが曽祖父を呼んでいる。
「うん、そうだよ。リーファが大変だって聞いてね。先程まで二人も此処にいたんだけど、今のリーファには辛いだろうと思って、席を外してもらったんだ」
リーファを安心させるためなのだろう、曽祖父の声音は、何処までもいつも通りのように感じられた。
だけど今の言葉で、リーファにも曽祖父が事情を知っていることが伝わったはずだ。案の定リーファは、
「に、にぃ、さま……あの、僕、僕……」
うわぁんと、さっそく泣き出し始めて、どうやら曽祖父に抱き着いたようだった。
しゃくり上げるリーファを、曽祖父が優しく宥める。
「大丈夫、大丈夫だよ、リーファ。大丈夫だからね。僕がついてる」
「兄様ぁ……!」
どれぐらいの間、そうしてリーファの泣き声を聞いていたことだろうか。胸が引き絞られるようだった。
ああ、リーファ。かわいそうに。どれほど混乱していることだろう。あんな風に泣かせたくなんてなかったのに。
ようやくリーファの泣き声が、少し控えめになってきたのは随分と経ってからのこと。
曽祖父はリーファの様子をうかがいながら、優しく声をかけている。
「少しは落ち着いてきたかな? ふふ。こんなに泣いて……目が溶けてしまいそうだね」
「ごめん、なさい、兄様、でも僕……」
「いいんだよ、わかっているから。好きなだけ泣くといい。でも。……――リーファは、自分が今、どうなっているのか、わかっているよね?」
曽祖父の問いかけに、リーファは小さく頷いた。
「ぅん……」
「いい子だ。記憶と認識に齟齬がある。魔術師塔の者たちの開発していた魔道具が、誤作動を起こして、リーファはそれに巻き込まれたんだ。だから認識がおかしくなってしまった。それはリーファだって自覚しているだろう?」
「ぅ……にぃさま……僕、僕っ……」
「ああ、リーファ、大丈夫、大丈夫だよ。大丈夫だから。僕の言葉を、よく聞いて。深く考えなくていい。お前の認識のまま。リーファの義兄上は、リーファを大変に心配している。当たり前だろう? リーファの義兄上にとって、リーファよりも大事なものなんてないんだから。だけどリーファは今、とても混乱していて辛そうだから、リーファの義兄上は、リーファが元に戻るまで、眠ったままでいた方がいいんじゃないかと言っているんだ。わかるかい?」
曽祖父はあえて、私のこともラーヴィのことも名を呼ばず、リーファに合わせて義兄上とそう称しているようだった。
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