【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

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第二章・ペーリュ視点

2-32・今、出来ること

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 リーファの取り乱しようを思い出す。ひどく、混乱していた。
 魔術師塔に所属している者達の話はあくまで予測であるらしい。確たることなど、現状では何も言えないのだそうだ。

「その認識の齟齬とやらは元へ戻せるのか」
「研究室へ戻って、魔術式を確認してみないことには何もお応えできません。ですが、おそらく、作用してしまった魔術をなかったことには出来ない可能性が非常に高い。何分、今回のことは偶発的な事故なのです。同じような状況など、おそらくは作り出せない」

 彼らの言葉に、私は思わず顔をしかめていた。
 魔術をなかったことに出来ない。それはつまり。

「戻せない、ということか?」
「いいえ、可能性はございます。認識の齟齬をもう一度、発生させるのです。今回誤作動を起こした魔術式ではなく、新たな魔術式を作成することによって」

 すぐに返った否定に、しかし続く言葉を聞くと決して安心できる状況ではないのだということだけが分かった。
 今回起こっただろう作用を確認し、新たに、今度は意図的に同じ作用が発生しうる魔術式を別で作成する。
 それはどう考えても容易ではないだろう。
 その魔術式を作成するのに、いったいどれだけの期間がかかるのか。私でさえ、全く予想が出来ず、しかめた顔が戻せない。
 おまけに問題の魔術式は研究室にしか存在せず、リーファの意識がない以上、全ては憶測にすぎず。しかしおそらく間違ってはいないだろうとも思う。少なくとも、リーファがひどく混乱していて、認識の齟齬を起こしていると思われるのは事実なのだ。
 私は首を振って溜め息を吐いた。
 いかに事故だとは言え、何の咎めもしないだなんてわけにはいかないが、かと言って意図的な物でも、未然に防げた可能性のあることでもなく、今後の対処にも彼ら自身の力が必要である以上、明確な罰など現状では与えられず、おそらく後々であっても、事情を聴いたリーファなら、彼らに怒りを向けることそのものがないだろうと思われた。
 過剰な罰となれば、逆にリーファが気にしてしまうだろう。

「事情は理解した。今回の件についての責は、後日改めて問わせてもらう。それよりも問題の魔術式や状況の解析が必要だというのなら、すぐにでも取り掛かってもらいたいのだが」
「勿論、早急に確認いたしますっ」
「同時に状況の改善が見込める魔術式の作成も急ぎましょう」

 私の言葉へとそれぞれが頷くのへ、ならばさっそくと送り出す。
 彼らは文字通り急いで、彼ら自身の研究室へと戻っていった。
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