【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

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第二章・ペーリュ視点

2-29・恐怖と嫌悪

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 リーファは私のことを名前で呼ばない。必ず『義兄上あにうえ』とそう呼んだ。
 これは引き取った当初、リーファが初めて私を呼んでくれた時からそうで、例外は今まで一度としてなかった。
 形式ばって、『エピェリュジオ義兄上』もしくは『エピェリュジオ皇帝陛下』などと、そう呼ぶことはあっても、ペーリュなどという愛称で呼んだことは一度としてなく、それだけで今が、どれほどの非常事態なのかを察することが出来る。
 いったい何がどうしたのか。リーファがどうなって。
 こちらを見るリーファの眼差しが、わけがわからないと、ただひたすらに混乱していた。首をふるり、横に振って、まるで私にそうするように、縋るようにラーヴィを見て、

「義兄上……」

 ラーヴィのこと・・・・・・・をそう呼んだ。私は愕然とする。
 私のことを、愛称で呼ばないのと同じように、リーファは私以外のことを、『義兄上』と呼ぶことはない。
 それは、戸籍上は同じ関係性であるラーヴィのこともそうで、今度は逆に、『ラーヴィ義兄上』とかならず、愛称をつけて呼びかけていた。
 そういった明確な呼びわけが、リーファの中で存在しているのである。ちなみに曽祖父のことも必ず『兄様』である。
 そんなリーファが違う呼び方をしている。私とラーヴィをまるで逆にしたような呼び方を。
 だが、すぐに、そんな自分の呼び方にさえ混乱した様子で瞳を揺らして。

「ぁっ、ぁっ、ぁあっ……」

 ふるり、ふるり首を横に振る。
 何かに怯えるように。堪えがたい何かに、襲われてでもいるかのように。

「リーファっ!」

 ラーヴィの呼びかけに、まるで不安な時に私を見るのと同じ、縋る眼差しでラーヴィを見て、だけどすぐに、そうした自分が信じられないとばかりに瞳を揺らす。

「リーファ」

 それは、私の呼びかけに対しても同じだ。
 否、私に対する時の混乱は、よりひどいように私には思えた。それどころか、むしろ。

「ペーリュ、義兄あにう、ぇ……」

 そう、私を呼ぶ揺れる瞳に宿るのは、恐怖と嫌悪……?
 これまで一度として、そのような眼差しをリーファに向けられたことのなかった私は愕然とする。
本当にいったいどうしたというのか。リーファに、何が。
 私も、おそらくはラーヴィも、わけがわからないまま何もできず、そのままリーファは、

「ぁっ、ぁああ、あぁあっ! ぁあっ!」

 頭を抱え呻いたかと思うとぷつり、糸が切れたかのように崩れ落ちたのだった。

「リーファっ!」

 咄嗟に支えた体はどうしてか。なんだかいつもより重く感じられて仕方がなかった。





※誤字誤変換脱字等のご指摘もありがとうございます!助かっております!リーファはブレません!😊
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