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第二章・ペーリュ視点
2-28・混乱
しおりを挟む私は先に行ったリーファとラーヴィの後を、ことさらゆっくりと追いかけていた。
わざわざかわいそうな弟に花を持たせてあげたのだ。あまり早く追いついて、二人の時間を少なくしてしまっては意味がない。
いや、むしろ二人の時間など持たないでいて欲しいのだけれども、それはともかく。
一口に王宮の中庭と言っても、ただひたすらに広大だ。
あっという間に見えなくなってしまった二人は、さて、何処にいるのだろう。そう思いながら、二人の魔力の気配を探って、迷わずそちらへと近づいていった。
その矢先だった。
何か、変わった気配が剛速球で近づいてくると思ったのと同時、
「リーファっ!」
ラーヴィの、そんな悲鳴のような声が聞こえてきて。
当然、私は反射的に走り出していた。
先程の気配が向かった先と、声が聞こえてきた方向が同じ。ついでに、二人の魔力の気配も。
つまり、先程の変わった気配が、何か、問題にでもなったのかもしれないということ。
その上、先ほど上げられた名前だ。
リーファ。
悲鳴や、ラーヴィ、ではなく、リーファ。
それが意味するところは、つまり。
心臓が嫌な音をたてはじめる。いったい何があったのか。不安でたまらなくなる。
ああ、リーファ、リーファは無事なのか。
ここは王宮の、中庭。この世界の何処よりも安全であるはずの場所だ。幾重もの結界が張り巡らされ、優秀な兵士や騎士が、そこ彼処に配置されている。
実の所、悪意や害意のみならず、物理的な接触さえ、制限されているような場所。
そんな場所で、いったい何が起こったというのか。
逸る気持ちのまま、走り寄った私が見たものは、蹲るリーファと、その傍らで、困惑した様子でリーファを支えるラーヴィだった。
「リーファっ! ラーヴィっ!」
名前を呼びながら近づく私に、ラーヴィの顔が上げられる。その眼差しは、どうしたらいいのかわらかないとばかり、不安げに揺れていた。
だが、その傍らのリーファの顔が上がらない。俯いたまま、じっと動かず。
私はそっと、リーファの隅から隅まで視線を走らせた。
外傷のようなものは見当たらない。魔力の気配も、何処もおかしなものはないように見えた、否、少し、違和感が、ある?
どこだろうか。目を凝らして気付く。心臓の辺りだ。
リーファの心臓? そこにいったい何が。
触れられそうなほど近くまで駆け寄って、屈みこんだ私に、ようやくリーファの顔が上げられた。
私を見上げるリーファの眼差しは、混乱しきった様子で揺れて、そして。
「リーファ?」
「ペ、ペーリュ、義兄上……?」
訝しげに落とされた私の声に返ってきたのは、あり得ないはずの呼びかけだった。
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