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第二章・ペーリュ視点
2-16・悪夢
しおりを挟むリーファは時々、眠っている時にうなされるようになった。
「いや、いや、やめてっ! やめてぇっ!!」
「リーファ、リーファ、リーファっ!」
多分、夢に見ているのだろう、目の前で誰かが害された瞬間を。
リーファは、誰かが殴られている所なんて見たことがなかったはずだ。
勿論、護身術代わりに剣術などは習っている。だけどそれらは決して、誰かが一方的に殴られたりだとかするようなものではなく、少なくともリーファの見たことのある訓練では、そのような場面など、目にすることはなかっただろう。
もし殴られたり、打ち据えられたりするようなことがあっても、それはあくまでも訓練で、本当に一方的な暴力と言っていいような物とは全然違う。
なのにそんな場面を見た。見せられた。
剰え殴った男は、これはリーファの代わりに殴られているのだと言ったのだそうだ。
自分の所為で誰かが害される。自分のことは害せないから、その代わりに。
それはいったいどれほどの傷をリーファに残したことだろうか。
こんなにいつまでも夢に見るほどだなんて。ああ、本当に腹立たしくて仕方がない。もっと明確に厳しい罰を与えるべきだっただろうか。否、違う、私が今しなければいけないことはそんなことではない、そんな、考えたくもないような相手に怒りを向けるのではなく、それよりももっと大切なことがあった。
リーファだ。
リーファ以上に大切なものなんてない。
私がしなければいけないことは、誰かへと罰を与えることではなく、リーファの傷を慰め、癒すことなのだ。ともすればすぐにも間違えそうになる自分を諫め、あえて魔力を乗せない手で揺さぶり、リーファを眠りから覚まさせてやる。
魔力で触れてしまうと、リーファは起きられないから。リーファを起こす時には必ず、全く魔力をリーファへと流さないように気を付ける必要があった。
自分の叫び声も相俟ってか、はっとリーファが目を覚ます。
大きく目を見開き、恐怖に顔を歪めて。
「ぁっ……、ぁ、ぁ……?」
そうして起きてすぐには何処を見ているのかもわからなかったリーファの眼差しが徐々に私へと戻ってきて、どこかほっと、リーファが、息を吐いたのが分かった。
「義兄う、ぇ……?」
「そうだよ、リーファ。私だ」
「っ、義兄上っ……!」
私をしっかりと認識したかと思うと、わっと泣き出しながらこちらへと飛びついてくる。
「おっと」
まだまだ華奢なままの肩を、私は危なげなく受け止めた。
ああ、なんてかわいそうなリーファ。
もっと、この子を、慰め、支えてあげなければ。そう、思いながら。
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