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幕間
x2-1・兄の葛藤①
しおりを挟むドゥナラル公国から、今回の視察の後始末についての報告を、はじめに受け取ったのはアーディだった。
アーディはリーファの上から2番目の兄で、また同時に、ここ、ナウラティス帝国の現皇帝であるエピェリュジオ……――ペーリュの曾祖父になる。ペーリュの前、つまり先代の皇帝だ。
ペーリュに帝位を譲位したのは今から20年以上前のことで、本来なら、視察の報告だなんて、関係ないはずだった。だが。
「まぁ、時期的にもね。仕方がない部分はある、別に手伝うのはやぶさかではないんだけれど」
などと言いつつ、いる場所は皇帝、つまり本来ならペーリュがいるはずの執務室で、アーディの目の前に摘まれているのは、皇帝がするはずの仕事の数々。
もっとも、はじめからアーディは全てを肩代わりするつもりなどさらさらなく、最低限以外のものは全てペーリュへと残しておく予定だった。
そんな中、届けられた報告について、アーディはしばし考えた。
「うーん」
これを受け取るべきは、やっぱり自分ではないんだよなぁと思うのだ。
なお、本来これらの仕事をこなし、かつ、この報告を受け取るべき現皇帝、ペーリュが今、何をしているのかというと……――何のことはない。近々迎える予定の次期皇后、現在妊娠中であり、また、書類上はまだ義弟であるはずのリーファと、仲良くする為に寝室にこもっているのである。陽も高いこんな時間から早々に。と、言うよりはアーディが把握している限りでは、先日の視察からナウラティスへと戻ってきてからこちら、最低限の仕事のみ熟して、ほとんど寝室から出てきていないはずだ。
それも、さて、今日で何日目だったことか。
あまりに長引くようだったら、もちろん、苦言を呈そうと考えているけれど、彼の公国で視察中に起こった出来事を聞く限り、リーファのことを考えるなら、今のようにこうして、二人で寝室にこもることも、決して悪いこととは思えなかった。
特に今、リーファは身ごもっていて、魔力が必要な時期なのだ。勿論、それは今ぐらいの時期なら、毎日である必要などどこにもない物ではあるのだが、聞く所によると彼の公国で連れ去られまでしたらしいリーファの心情を考慮するならば、ペーリュからの充分な甘やかしはむしろ必要なこととさえ言えて、だからアーディはある程度なら手助けするつもりで今もここでこうしていた。
とはいえ、この報告書に関しての判断は、アーディにはしかねることもまた、間違いようもないことで。
この報告書によると、今回の視察で、少々問題となった箇所。つまりほんの少しの不審な予算の流入先は、なんでも彼の公国の宰相位にいた人物が発端であったのだとのこと。リーファへと暴言を吐いたらしい公女を、そう仕向けるよう導いたのもその人物なら、リーファの連れ去りそのものを企み、実行を指示したのも同じ人物で、理由としては何のことはない、さして多くもなかった流用金を、誤魔化す方法を模索して行った犯行であったのだそうだ。
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