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幕間
x1-1・公女の顛末①
しおりを挟む口までも拘束されたまま、ノルフィが兵士に連れて行かれたのは、しかし牢だとかではなく、先程までいたのとはまた別の、やはり応接室のような一室だった。
「ノルフィ!」
部屋に入った途端、室内にいたらしい姉が駆け寄ってくる。
もはやノルフィに抵抗の意思がないのを見て取ってか、兵士は素早く全ての拘束を解いていった。
多分、正しく、ノルフィがこれまで、為すがままおとなしくしていたが故なのだろう。おそらく、抵抗していたならば、連れていかれた先は本当に牢だったのかもしれない。
ノルフィはもう、何もかもがわからなかった。
好きだったのだ。
ひと目見た時から、彼の皇帝に好意を寄せていた。
彼の妻になりたかった。
ただそれだけだった。
それだけの、はずだった。
「姉様」
力なくこぼれた声は掠れている。どうしてだろうか。大声を出し続けたりだとか、そんなことをしたわけではないのに。
多分きっと、ノルフィ自身の心情が、揺れているが故なのだろう。
「ああ、ノルフィ、心配していたのよ? 貴方、最近なんだかおかしかったし……もし陛下の怒りを買ってしまったらって」
姉は大変にたおやかで善人だ。思いやりにあふれている。
思い返すとこの一週間は、自分でもどうかと思うほど、皇帝に纏わりついていたノルフィを、その都度たしなめ、思いとどまらせようとしてくれていた。
その時は、どうして自分の邪魔をするのかと苛立ってばかりだったけれど、今ならばわかる。姉はただ、ノルフィを心配してくれていただけなのだ。
皇帝の怒り。
そんなもの、思いっきり買ってしまっていると思う。
ノルフィには自覚があった。自分はそれだけのことをして、そうならないはずがないようなことを言い続けたのだ。
自分が今、こうして姉に会い、拘束も全て解かれたのは偏に、彼の王弟殿下の慈悲に他ならない。
ノルフィは彼にひどいことばかり言ったのに。そんなノルフィを、あの皇帝殿下はかわいそうだと憐れんでいたのである。
それさえ、少し前の自分なら、屈辱に感じるばかりだったのではないかと思う。だけど、今は違った。
今は。
どうすればいいのかわからない。
だって好きだった。ただ、好きだっただけなのだ。でも。
「姉様ぁ……」
ノルフィは泣き崩れた。
姉はあの場にいなかったので何も知らない。何も知らないけれども、ノルフィを慰めてくれる。
「どうしたの、ノルフィ? 大丈夫、大丈夫よ。きっとそれほど怖いことになんてならないわ。ね? ノルフィ」
優しい姉の腕の中で。ノルフィはただ、涙を流すことしかできなかった。
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