【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

文字の大きさ
上 下
69 / 148
第一章・リーファ視点

1-68・本当のお話⑥

しおりを挟む

 公女様のお顔は、すっかりと青ざめている。
 それは大公閣下も同じだ。

「し、信じられませんわ、そんなこと。へ、陛下がなさるはずございませんもの」

 ふり、首を横に振りながら、それでも気丈に義兄上あにうえのお話を否定する公女様は、多分元々はとても、しっかりした方なのだろう。
 ただ、義兄上に好意を抱いて、その好意を利用されるかのように、色々と本当ではないことを教えられ、それに操られるようにして行動していた。
 僕はこの時になって初めて、この公女様もかわいそうな人なのかもしれないと思った。
 だって今、僕を見る公女様の視線には、少し前までの嫌な印象が、全くなくなっているのだから。
 むしろこれは多分、僕は心配されているのではないかとさえ思う。

「君が信じようが信じまいがどうでもいいけどね。事実は覆られないよ。リーファのお腹の子供が僕の子供であることは、絶対に間違いないのだから」

 義兄上は。だから、僕の身持ちが緩いだとかそういったことはあり得ないと、今一度きっぱりと否定して下さったのだった。
 そんな義兄上の言葉に、公女様は震えている。
 公女様の言っていたことが、全て否定されたからだろうか。それとも、単純に義兄上が怖いのか。
 両方かもしれないと僕は思った。

「あ、あり得ないわ……そんなの、それではまるで、陛下が……」
「私が、何?」

 小さく落とされた公女様の呟きを拾った義兄上がにっこりと、あえて笑顔を作って公女様に問い返す。
 公女様はふると首を横に振った、そして、はっと何かに気づいたように改めて僕を見る。

「ぁ、そうだわ、そこの貴方……――殿下。殿下は、どうなのです? 自分の意識がない間に、ご自身のお体を勝手に使用されていたと、そういうお話しなんですのよ?」

 嫌だろう、嫌悪するだろう、悍ましいのではないか。
 それが当然で当たり前。
 そう信じて疑っていないような声音だった。
 僕は首を傾げる。
 義兄上も同じよう、不思議しそうに公女様を見ている。
 本当にどこまでも何を言っているのかよくわからない公女様だなぁと僕は思う。
 だって。

「それがどうかしたの? 僕の意識はなかったのでしょう? なら、勝手に使うしかないじゃない」

 何せ僕が眠っている間のお話だというのだ。僕に何か出来るはずがない。勝手に使うのは、言ってしまえば当たり前のことだろう。
 公女様は僕の返答にとても怖い何かでも見ているかのような眼差しで僕を見ていた。
 同じ眼差しを義兄上にも注いでいる。
 僕はあれ? と首を傾げた。
 公女様の眼差しには、ほんのついさっきまで存在した、義兄上を求めてやまない焦がれるような熱が、もうすっかり今では含まれなくなっているように見える。むしろ怯えているのではないかとさえ思われた。
 公女様が震えながら首を横に振る。

「あ、貴方達おかしいわっ! そんなの、狂ってるとしか思えないっ」
「ノルフィ!」

 何を言っているのだろう。やっぱり公女様の言っていることはよくわからない。
 今度は僕だけではなく、義兄上にまで矛先を向けた言葉に、真っ青になった大公閣下が慌てて公女様の言葉を再度、遮ろうとしていた。
 公女様は。今度はあまり抗おうとしなかった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...