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第一章・リーファ視点
1-68・本当のお話⑥
しおりを挟む公女様のお顔は、すっかりと青ざめている。
それは大公閣下も同じだ。
「し、信じられませんわ、そんなこと。へ、陛下がなさるはずございませんもの」
ふり、首を横に振りながら、それでも気丈に義兄上のお話を否定する公女様は、多分元々はとても、しっかりした方なのだろう。
ただ、義兄上に好意を抱いて、その好意を利用されるかのように、色々と本当ではないことを教えられ、それに操られるようにして行動していた。
僕はこの時になって初めて、この公女様もかわいそうな人なのかもしれないと思った。
だって今、僕を見る公女様の視線には、少し前までの嫌な印象が、全くなくなっているのだから。
むしろこれは多分、僕は心配されているのではないかとさえ思う。
「君が信じようが信じまいがどうでもいいけどね。事実は覆られないよ。リーファのお腹の子供が僕の子供であることは、絶対に間違いないのだから」
義兄上は。だから、僕の身持ちが緩いだとかそういったことはあり得ないと、今一度きっぱりと否定して下さったのだった。
そんな義兄上の言葉に、公女様は震えている。
公女様の言っていたことが、全て否定されたからだろうか。それとも、単純に義兄上が怖いのか。
両方かもしれないと僕は思った。
「あ、あり得ないわ……そんなの、それではまるで、陛下が……」
「私が、何?」
小さく落とされた公女様の呟きを拾った義兄上がにっこりと、あえて笑顔を作って公女様に問い返す。
公女様はふると首を横に振った、そして、はっと何かに気づいたように改めて僕を見る。
「ぁ、そうだわ、そこの貴方……――殿下。殿下は、どうなのです? 自分の意識がない間に、ご自身のお体を勝手に使用されていたと、そういうお話しなんですのよ?」
嫌だろう、嫌悪するだろう、悍ましいのではないか。
それが当然で当たり前。
そう信じて疑っていないような声音だった。
僕は首を傾げる。
義兄上も同じよう、不思議しそうに公女様を見ている。
本当にどこまでも何を言っているのかよくわからない公女様だなぁと僕は思う。
だって。
「それがどうかしたの? 僕の意識はなかったのでしょう? なら、勝手に使うしかないじゃない」
何せ僕が眠っている間のお話だというのだ。僕に何か出来るはずがない。勝手に使うのは、言ってしまえば当たり前のことだろう。
公女様は僕の返答にとても怖い何かでも見ているかのような眼差しで僕を見ていた。
同じ眼差しを義兄上にも注いでいる。
僕はあれ? と首を傾げた。
公女様の眼差しには、ほんのついさっきまで存在した、義兄上を求めてやまない焦がれるような熱が、もうすっかり今では含まれなくなっているように見える。むしろ怯えているのではないかとさえ思われた。
公女様が震えながら首を横に振る。
「あ、貴方達おかしいわっ! そんなの、狂ってるとしか思えないっ」
「ノルフィ!」
何を言っているのだろう。やっぱり公女様の言っていることはよくわからない。
今度は僕だけではなく、義兄上にまで矛先を向けた言葉に、真っ青になった大公閣下が慌てて公女様の言葉を再度、遮ろうとしていた。
公女様は。今度はあまり抗おうとしなかった。
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