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第一章・リーファ視点
1-64・本当のお話②
しおりを挟む僕は義兄上の腕の中で少し、ううん、とてもたくさん考える。
公女様の言っておられることを、だ。
でも。改めて考えてもわけがわからなかった。
それはおそらく義兄上も、もしかしたら大公閣下も同じだと思う。
義兄上は少しだけ考えて、渋々、と言った風に、公女様の方へとちらと視線を向けられた。
「陛下!」
気付いた公女様が途端に顔を輝かせるが、義兄上はなんだか嫌そうな顔で公女様を見ている。あまり見たくないって、表情で語っているみたいだった。
「少し、聞きたいんだけどね。さっき、君はリーファがいなくなって慌てている私を、行き先を知っていると言ってここへ連れてきたね」
なるほど、この応接室のような所に、義兄上と公女様が一緒にいらしたのは、そんな理由であるらしかった。
「そうですわね」
公女様は頷く。
義兄上はすっと目を細められた。
「それはつまり、リーファをさらったのは君だということかな?」
ある意味、確信を持った問いかけのように聞こえた。でも。
「まさか。私はそんなことしませんわ。ただ聞いただけです。身の程を知らないその子供を、懲らしめることにしたのだとね」
得意げな公女様に、嘘を吐いている様子はなかった。
義兄上も小さく頷く。
「なるほど。それはリーファについての他のことを君に教えた人と同じかな?」
「ええ、そうですわ。たくさんのことをお教え下さいましたの。その者が卑しい生まれであるだとか、お腹の子供の父親がどうもわからないらしいだとかいうことを、たくさん。陛下はその者に、騙されているのですわ」
義兄上の質問に頷いて、そう話す公女様は、心底義兄上を気遣ってでもいるかの様子をしていらした。
これも多分、嘘ではないんだろうなぁと思いながら、僕はただ見ているだけ。
公女様が公女様ご自身の中では嘘を言っているわけではなかったとしても、わけがわからないことに変わりはない。
本当にこの人はいったい何を言っているのだろうか。大公閣下だって公女様のことを、どうすればいいのかわからないと言いたそうなお顔で見ていらっしゃる。
「ノルフィ、お前はまだそのようなことを……」
「お父様こそ、どうなさったのです? まさかあの子供はお父様にまで毒牙をっ……!」
毒牙。公女様の中で、僕はいったいどのような存在だというのだろう。
義兄上はとても、とてもものすっごく不快な話を聞いているというお顔を隠さずに、本当に仕方なく、口を開くことにしたらしかった。
「その話なんだけどね。騙されているとしたら君の方だよ」
そうしてきっぱりと、公女様のお言葉を否定されたのである。
それは当たり前の話だった。
だって公女様のお話のどこにも、ほとんど本当のことなんてなかったのだから。
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