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第一章・リーファ視点
1-55・知らない誰か③
しおりを挟む目の前の男の人は多分、今以上に僕に近づけない。
僕に触れられるのは、今、僕を支えながら怯えているこの人だけ。
そっと視線は目の前の男の人に留めたまま、周囲の気配を探っていく。
この場所は狭い部屋みたいだった。何かの倉庫だろうか。そこかしこに雑然と物が置かれている。
目の前の男の人と、今、僕を支えてくれている人以外に、この場所にいるのは3人。つまり、全部で5人いるみたい。
でも、僕とお話ししようとしているのは、どうやらこの目の前の男の人だけのようだった。
この5人の中の代表、みたいなものなのかもしれない。
目の前の男の人も含めて、目に入るもの全てが汚れていた。
いったいここは何処なのだろうか。初めて見る場所だ。と、言うより、こんなに汚い場所自体、僕は初めて見る。
こういう場所っていっぱいあるものなの? ちゃんとお掃除すればいいのに。
僕が今まで一番汚いと思っていたのは、魔術師塔にある、お片付けが苦手な魔術師さんの研究室で、研究道具やら資料やらのものであふれてはいても、それぞれそのものはキレイに管理されていたりして、少なくとも、こんなにも汚れていなかった。
今、鼻に届いている、変な臭いにおいだって、これまで嗅いだことがない。
そんなとっても汚い場所に、どうして僕はいるんだろう。
眠っている間に連れて来られたのは間違いないと思うのだけれど、でも、それがなぜなのかがわからない。
僕はナウラティスの王族だ。その意味を、ちゃんと理解しているのだろうか。
そんな立場の人間を連れ去るだなんて。どういうことになっても、文句は言えない。
そもそも、僕に近づけもしないのに、いったい何をどうするというのだろう。
さっきこの男の人は、自分の状況と言っていた。
それがいったいどういう状況のことを指しているのかさえ、僕にはさっぱりわからなかった。
だから、きょとんと男の人を不思議そうに見るばかりの僕に、男の人が苛立たし気に舌打ちをする。
「何にもわかりませんってな顔してんじゃねぇぞ、ぁあ?」
なら、いったいどういう顔をしていればいいんだろうか。本当に全く何もわからないのだけれど。
男の人はやっぱり僕には近づけないみたいで、つまり、悪意か害意があるんだろうなと僕は思った。
他の三人は見てるだけ。多分、この三人も近づいて来れないんだろう。
「くそっ、埒が明かねぇー! おい、お前こいつを裸に剥けっ」
「ひぃっ!」
苛立った男の人が、僕の方へと近づいて来ようとするのを諦めて、すぐ傍にあった小汚い何かをガンっと蹴り上げる。そうしていながら、僕を支え続けてくれている人に、顎をしゃくって指示を出した。
だけど、僕の側にいる人は悲鳴を上げてガタガタと震えるばかりで。一向に動く気配がない。否、多分、恐怖で動けないのだろう。
かわいそうに。僕はぎゅっと眉根を寄せた。
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