【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

文字の大きさ
上 下
56 / 148
第一章・リーファ視点

1-55・知らない誰か③

しおりを挟む

 目の前の男の人は多分、今以上に僕に近づけない。
 僕に触れられるのは、今、僕を支えながら怯えているこの人だけ。
 そっと視線は目の前の男の人に留めたまま、周囲の気配を探っていく。
 この場所は狭い部屋みたいだった。何かの倉庫だろうか。そこかしこに雑然と物が置かれている。
 目の前の男の人と、今、僕を支えてくれている人以外に、この場所にいるのは3人。つまり、全部で5人いるみたい。
 でも、僕とお話ししようとしているのは、どうやらこの目の前の男の人だけのようだった。
 この5人の中の代表、みたいなものなのかもしれない。
 目の前の男の人も含めて、目に入るもの全てが汚れていた。
 いったいここは何処なのだろうか。初めて見る場所だ。と、言うより、こんなに汚い場所自体、僕は初めて見る。
 こういう場所っていっぱいあるものなの? ちゃんとお掃除すればいいのに。
 僕が今まで一番汚いと思っていたのは、魔術師塔にある、お片付けが苦手な魔術師さんの研究室で、研究道具やら資料やらのものであふれてはいても、それぞれそのものはキレイに管理されていたりして、少なくとも、こんなにも汚れていなかった。
 今、鼻に届いている、変なくさいにおいだって、これまで嗅いだことがない。
 そんなとっても汚い場所に、どうして僕はいるんだろう。
 眠っている間に連れて来られたのは間違いないと思うのだけれど、でも、それがなぜなのかがわからない。
 僕はナウラティスの王族だ。その意味を、ちゃんと理解しているのだろうか。
 そんな立場の人間を連れ去るだなんて。どういうことになっても、文句は言えない。
 そもそも、僕に近づけもしないのに、いったい何をどうするというのだろう。
 さっきこの男の人は、自分の状況と言っていた。
 それがいったいどういう状況のことを指しているのかさえ、僕にはさっぱりわからなかった。
 だから、きょとんと男の人を不思議そうに見るばかりの僕に、男の人が苛立たし気に舌打ちをする。

「何にもわかりませんってな顔してんじゃねぇぞ、ぁあ?」

 なら、いったいどういう顔をしていればいいんだろうか。本当に全く何もわからないのだけれど。
 男の人はやっぱり僕には近づけないみたいで、つまり、悪意か害意があるんだろうなと僕は思った。
 他の三人は見てるだけ。多分、この三人も近づいて来れないんだろう。

「くそっ、埒が明かねぇー! おい、お前こいつを裸に剥けっ」
「ひぃっ!」

 苛立った男の人が、僕の方へと近づいて来ようとするのを諦めて、すぐ傍にあった小汚い何かをガンっと蹴り上げる。そうしていながら、僕を支え続けてくれている人に、顎をしゃくって指示を出した。
 だけど、僕の側にいる人は悲鳴を上げてガタガタと震えるばかりで。一向に動く気配がない。否、多分、恐怖で動けないのだろう。
 かわいそうに。僕はぎゅっと眉根を寄せた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...