【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

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第一章・リーファ視点

1-48・悪意とは

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 いつも通り、僕の身支度を、義兄上あにうえ自らの手で整えて下さるのに任せ、ようやくしっかりお洋服を着終わった時に、さて、と改めて義兄上が僕に話しかけてきた。
 ベッドに並んで腰かける。

「朝食の前に少しだけ、昨夜のお話をしようか、リーファ」

 その言葉に、僕は、そうだった! 義兄上に、確認しないといけないことがあるんだった! と思い出す。
 朝から義兄上にいっぱい可愛がっていただいて、幸せでふわふわして、すっかり昨夜のことなんて忘れてしまっていた。
 そうだった、そうだった。あの第二公女様に言われた悲しくなってしまうわけのわからないお話を、義兄上にもお伝えしておかないと。
 とは言え多分もう、義兄上のことだから、全部わかっておられるんだろうけど。

「昨夜はリーファを一人にするべきじゃなかったね。その所為で悲しい思いをさせてしまった。すまない」

 義兄上がしゅんとしながら、そんな風に僕に謝罪する。僕は首を横に振った。

「いいえ! 義兄上が謝るようなことじゃありません。それに義兄上は、助けに来てくださったじゃありませんか」

 だってあんなの、義兄上が悪いわけじゃない。義兄上は僕を気遣って下さっただけだ。そこに一度追い出された第二公女様が戻って来られるなんて。そんなの、僕にも義兄上にもわかるようなことじゃなかった。
 しかも公女様が、あんなことを言うなんて、余計に事前に分かるわけがない。
 にもかかわらず、僕がどうすればいいのかわからなくなっている時に、義兄上は急いで駆けつけてきてくれたのだ。
 だから義兄上が謝るようなことなんて何もない。
 何よりも昨夜、義兄上のお声が聞こえてきた時、僕はとっても安心したんだ。

「でも、昨夜はびっくりしました。なんだかよくわからないけど、悲しいことをたくさん言われて、僕、どうすればいいのかわからなくなって」

 あんなの、初めてだった。
 あんなに、何を言っているのかわからなくなりそうなことを言われるのも、お話を聞いただけなのに、いっぱいいっぱい悲しくなるのも。僕は本当に初めてで。

「ああ、そうだよね、リーファは今まであんなこと、言われたことがないものね。今まで悪意・・になんて、晒されることがなかった」

 悪意・・
 ナウラティスの結界がはじいているもの。昨夜も今も、僕にも義兄上にも施されたままの守護結界。
 悪意・・害意・・を弾くそれ。
 でも、結界が弾くことが出来るのは、悪意・・害意・・を持って接触してこようとしてくる人などからの接触であって、言葉を聞こえなくするようなものじゃないんだ。
 でも、そんなものに遭遇したことがなかったから、守護結界だって、ほとんど意識したことがなかった。
 たまに近づいてこれない、みたいな人がいて、そういう人は、つまり悪意・・害意・・を持っているんだな、とは思っている。
 そんな、悪意・・
 なるほど、あれが悪意・・だったのか。
 悪意・・っていう言葉は知っていた。でも僕はもしかしたら今まで、よくわかっていなかったのかもしれない。

「あれが、悪意・・なんですか? 義兄上」

 確かめると義兄上は頷いた。

「そうだよ。あれが悪意・・だ。誰かを傷つけようとする悪い意識。誰かのことを、悪く思う心。昨夜の第二公女殿下は、リーファを傷つけようとしていたんだよ」
「言葉で?」
「そう、言葉で、だ。言葉で、リーファのを傷つけようとしたんだろうね。リーファは、彼女のわけのわからないお話を聞いて悲しくなってしまったんじゃないかい?」

 僕はびっくりする。誰かを傷つける為の言葉。それはなんて恐ろしいのだろう。
 義兄上のお話に、僕は頷いた。

「とってもとっても悲しくなりました。何を言っているのかわからないし、なんて返せばいいのかわからなくて」
「ああ、わかっているよ、リーファはたくさん悲しくなってしまったんだよね。大丈夫だよ、私がいるから。これからはあんな目には合わせない。なにからだってリーファを守るし、何処へだった助けに行くよ。可愛いリーファ。私のリーファ」
「義兄上」

 言いながら義兄上が僕をぎゅっと抱きしめてくれる。
 あたたかくて安心する、義兄上の腕の中、昨夜の公女様の言葉を思い出して、また悲しくなってしまっていた僕は縋るように義兄上の胸元へと、頭をすりとこすりつけていた。
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