【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

文字の大きさ
上 下
41 / 148
第一章・リーファ視点

1-40・夜会③

しおりを挟む

 夜会も終盤に近付くと、どうしても疲れが隠せなくなってくる。
 特に僕は普段からこんなにも人の多い場所そのものに縁がなく、余計に疲れが顕著だった。
 見かねたのだろう、義兄上あにうえが、

「少し、涼んでくるといい」

 と、バルコニーの方を指して言ったので、なるほど、外の空気を吸ってくるのもよさそうだと、僕は素直に頷いた。

「では義兄上、少し休憩してきます」
「ああ。気を付けて。出来るだけ早く迎えに行くよ」
「いえ、僕の方こそすぐに戻ります」

 義兄上に見送られながら一人、バルコニーに出るとそれだけで少し、息がしやすくなったような気がした。僕はどうやら自分で思う以上に緊張してしまっていたらしい。
 他にも何人か、同じように休憩に出てきたのだろう人影があって、全くの一人というわけではないが、それでも会場の中よりはずっと人が少なく、それだけでも全然違った。
 目の前にはおそらく庭園があるのだろうとは思うのだが、目に見える灯りは必要最低限のみで、庭の様子はよく見えない。
 そうすると余計に会場の灯りが際立つようだ。
 ここはどんな庭だっただろうか。幾度か通りすがりにでも目にしているはずなのだが、特に印象に残っておらず、思い出せない。
 そんな風にとりとめもなく思考を遊ばせ、しばらくぼんやりしていると、少し気持ちが楽になったように感じて、そろそろ戻ろうかと会場へと向き直ろうとした。
 そんな矢先。
 誰かが庭の方から近づいてくる気配を感じ、そちらへと視線を向ける。
 このバルコニーには、端の方に階段がついていて、庭に降りられるようになっていた。
 それはわかっていたのだけれど、それでも、灯りの乏しい庭の方へと降りている人がいるとは思ってもおらず、近づいてくるのが会場からではなくそちらの方からだったので少しばかり驚いてしまう。しかもどうやらその人影は、まっすぐに僕を目指しているようなのだ。
 いったい誰なのか。否、誰かはわかる、これまでに接したことのある魔力。と、言うか、先程も少しばかり近づいてきていた。
 父親が会場から追い出していたと思ったけれど、案の定懲りずにまたやってきたらしい。しかもこの様子だと、おそらく目的は義兄上じゃなくて僕なのだろう。
 徐々にはっきり見えるようになって来たその姿は、案の定この公国の第二公女様。
 僕のすぐ近くまで歩み寄ってきたかと思うと、彼女はおもむろに口を開いた。

「ごきげんよう、王弟殿下・・・・

 そう、あえて僕のことを名前ではなく立場で呼びながら話しかけてくる。あれほど幾度も睨み付けてきていたのに、今、僕に向けられている表情はにこりと微笑んでいて。ただし、その瞳は、決して笑ってなどいなかった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...