【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

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第一章・リーファ視点

3-37・夜会の準備② ※絵付

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 どちらかと言わずとも、むしろ少しだけ人が悪い。どうでもいい話ではあるのだけれど。

「大公閣下も、少々対応が甘いんじゃないかと言わざるを得ないよね。ま、今は視察中だし、そこまで手が回っていないのかもしれない。その辺りを考えると、彼ばかりを責められないとは思うけど……うん、顔はこれでいいかな。次は髪を整えるから、そのままじっとしていてね」

 僕のお顔にお化粧するのは満足したらしい義兄上あにうえは、そのまま今度は髪の毛を触ることにしたみたいだった。
 僕の髪はショートヘヤーだ。でも少し長めで、横髪は耳を覆うぐらいで、後ろも襟足を覆うぐらいの長さ。実は僕はもう少し短くしたいのだけれど、髪の毛のいじり易さ的な意味で、これぐらいの長さよりは短くしないで欲しいと言われている。
 僕の髪の毛を整えるのが、義兄上や侍女さんたちの楽しみの一つなんだって。
 髪の毛を編み込んだりだとかなんだとか、僕は全く興味を持てないのだけれど、断固として拒絶するというほど嫌なわけでもないので、彼ら、彼女らの希望通り、これ以上は短くしないようにはしていた。
 兄様は、

「ああ、ちょうど母様と同じぐらいだね。よく似合っているよ。少し癖もあるし。はは。そうしていると僕でも見間違えそうだ」

 って言っていたから、どうも母様もずっと同じぐらいの髪の長さだったみたい。髪質も同じなんだって。
 細くてやわらかくて少し癖のある僕の髪を、義兄上が器用に編み込んでいく。前髪を残して、頭の上の方から、横髪だけを編み込んで、後ろの方でピンで留めて。それを両側。まるで編み込みのカチューシャか何かのようになっていた。
 うーん、両側というのは珍しいかな。片側はよく同じようにされているんだけど。
 その上で片側の耳の上辺りに花飾りをつけられる。見たことのない髪留めだから、もしかしたら新調したのかもしれない。花芯の部分に取り付けられた宝石は、アメジストかな? 義兄上の瞳と同じ色をしていた。
 僕のみにつける装飾品の多くは、この色がどこかしらにあしらわれていることが多いんだ。それ以外だと、僕自身の瞳の色である水色とか、あとは金とか銀とかばかり。
 現に花飾りから垂らされた細いチェーンは銀色で、僕のほんの少しだけ黄味がかった銀髪より、よほど真白く輝いている。そのチェーンは後ろ頭を覆うように、逆側の耳の辺りに繋がっていた。そちら側は髪留めじゃなくて、普通の目立たないピンで留めて。
 花飾りのすぐ傍の耳に、イヤーカフが嵌められ、花飾りから伸びるチェーンはそれとも繋がっていた。
 少し動くとシャラシャラと微かな音がして少し面白い。
 少し女性的に感じる装いだけど、義兄上が満足そうだからきっとこれでいいんだろう。

「今日の夜会もね。一応、大公閣下は参加させないとおっしゃっていらしたけど、どうかなぁ……あの様子だと、無理やりにでも乗り込んでくるんじゃないかなと私は思うよ」

 話を聞く限り、僕もそうだろうなと思った。
 とっても強引な方みたいだから、止められたって大人しく従うわけがない。現に義兄上が辟易するぐらい、誰が止めても義兄上のお傍にいらしているみたいなのだもの。

「まだ確証はないんだけど、どうも大公閣下に近しい者の中に、彼女を指示している、というか、都合よく利用しようとしている人間がいるみたいだね。大方、ナウラティスと縁続きにとでも考えているんだろう。でも、かの第二公女だとそもそも結界に弾かれてどうにもならないと思うんだけど。……もしかしたら他にも狙いがあるのかもしれない」

 話しながら、髪の毛を仕上げた義兄上は、今度は僕を立たせ、服装全体を整え始めた。
 淡いグレーのタキシードは光沢のある生地で、装飾の少ない義兄上の来ている物とは違って、裾やタキシードの中のブラウスの袖口に控えめにフリルやレースがあしらわれていて、心持ち華やかな印象を受ける。
 いつものことと言えばいつものことだ。僕は何もかも義兄上の成すがまま。首元を覆うクラバットはピンで留められていて、そこに付いた宝石もアメジストだった。
 なんだか義兄上より華美に感じられて、いいのかなとちらと思うけれど、義兄上はりりしくていらっしゃって、充分にかっこいいからきっといいのだろう。
 僕よりも、短い艶やかな灰色の髪は、何の装飾もしていなくったってキレイだもの。
 そうすると僕は、装飾品で飾り立てなくてはならないぐらいみすぼらしいってことなのかも。なんて、母様に似ているらしいし、そもそもそんなこと言われたことないんだけどね。逆に容姿を褒められてもよくわからない。だって、鏡に映る自分の顔って、結局自分の顔でしかないんだもの。見苦しい、なんてことはないとは思うけど、僕に分かるのはそれぐらいだった。

「うん、これでいいかな。ああ、キレイだリーファ。可愛いね、私の天使」

 天使だって! 兄上はいつも大げさすぎて当てにならない。とりあえず僕はにっこり微笑んで。

「義兄上こそ、とってもかっこいいです」

 と、こちらは正直な賛辞を贈った。
 ちょうど全部の身支度が整ったのを見計らったかのようなタイミングで、使用人が様子を窺いに来る。もうそろそろ、ということなのだろう。

「じゃあ行こうか、リーファ」
「はい、義兄上」

 差し出された手を取った。
 それが気の進まない夜会の始まりの合図だった。





※リーファの髪の毛こんな感じ↓(とてもラフ。)
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