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第一章・リーファ視点
1-21・訪ねてきた兄様①
しおりを挟むその日のお昼過ぎ、義兄上に、今日はゆっくりしているようにと言われ、自室から出ず、読書をしていた僕の所に、義兄上から何かを聞いたのか、それとも何も聞いていないのか、兄様が様子を見に訪ねてきた。5つ下の甥っ子、ウィトゥフェル――……ヴィーフェも一緒だ。
「リーファ? 今日はどうしたんだい? こんなお昼間から部屋にいるなんて珍しいね」
「兄様! 兄様こそ、お部屋までいらっしゃるだなんて珍しいですね。今日は、……兄様?」
にこやかに僕へとそう言葉をかけてきた兄様は、出迎えるため椅子から立ち上がった僕を見た瞬間、ぴきりと固まった。
僕はきょとんと首を傾げる。
兄様に続いて部屋に入ってきたヴィーフェも僕を見た瞬間、目を見開いて驚いていた。
ヴィーフェの驚き顔とかなかなか見れないから稀少だ。
ヴィーフェはいつも冷静で、あんまり表情が変わらないからね。
そして兄様は、動き始めた途端、
「リーファっ!」
叫ぶように名を呼んで、僕の肩を両手で掴んだ。
え、え、どうして、何があったの?
「兄様?」
兄様は戸惑う僕の顔をじっと見つめたかと思うと、おもむろに視線を僕のお腹の辺りまで下ろして。僕はそこではっと気が付いた。
あ、そうか、子供!
子供が出来たことなんて、ちょっと魔法が得意な人なら、見ればわかるのだ。隠せるようなものじゃないし、そもそも僕は別に隠すつもりもない。
あれ? でもそうしたら、兄様は別に義兄上に言われて、僕の様子を見に来たとかいうわけじゃないんだな、と僕は悟った。
なら、どうして今日、僕のことを訪ねてきたんだろう? お部屋まで来るなんて本当に珍しい。しかもヴィーフェまで一緒にだなんて。
ヴィーフェは学園を卒業してから魔術師塔に勤めていたはずだけど、今日はたまたまお休みだったのかな? それで、暇だったから兄様についてきたとか?
魔術師塔には僕も勤めているんだけど、部署が違うと言えばいいのか、研究内容が違うから、実はそんなに会わないんだ。あそこは概ね、魔法魔術の研究をする所だからね。だから実は、休み、というか、出勤そのものもとっても自由度が高かったりする。とは言え、週に2日のお休みは半ば強制的に取らされるんだけど。そうでもしないと、研究に没頭して、ちゃんと休まない人がいっぱいいるからこその処置。魔術師塔は、そういう所。
別に今日、兄様とお約束なんてしてなかったと思うんだけど。でも、用があってもなくても、兄様と会えるだけで僕はちょっと嬉しい。
子供のことも、兄様に言わないと。僕はにっこりと兄様に笑いかけた。
「兄様! 僕、子供が出来たんです。なんでかはわかんないし、そもそもこの子のお父さんが誰なのかは僕にもわからないんですけど、でも、魔力は義兄上が下さることになったし、それで、」
「リーファ」
浮かれたように話し始めた僕の言葉を、兄様は僕の名前を呼ぶことで遮ってくる。
兄様はにっこりと笑っていらしたけれど、その笑顔は、なぜかほんの少しだけ怖かった。
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