【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

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第一章・リーファ視点

1-9・夕陽の中で

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 その後義兄上あにうえは、僕と離れないでいるとおっしゃって下さって、でもまだ午後の執務が残っていることを僕が気にしたら、ならばこのままここで休んでいるといいと、僕をそっとソファへと下ろしてくださった。

「子供が出来たのだろう? なら大切にしなくては。お前は自分が思うよりきっと疲れているはずだ。気分が悪くなっていたりはしないかい?」

 気遣ってくれる義兄上に、僕はふると首を横に振った。
 確かに子供を成したばかりの時は、どうしても魔力不足に陥りやすいと聞く。
 それを心配してくれたのだと思う。
 だけど今、僕が自覚している限りでは体自体に不調は感じられず、それはきっと僕自身が、元々たくさん魔力を持っているからなのだと考えられた。
 あるいはこの子を成す時に、他者の魔力を使用しなかった所為だろうか。否、そんなことあり得ない。だって子供が出来たということは、必ずどこかで僕は、誰かから魔力を注がれたはずなのだ。僕自身が知らない間に。
 ぞっとした。
 とってもとっても怖くなる。だけど。

「リーファ? 大丈夫かい?」

 僕を気遣ってくれる義兄上のお顔を見ていると、これ以上不安を表に出すのはよくない事のようにも思えてきて、僕は小さく頷いて、義兄上が促してくれるままにそっと体をソファへと横たえたのだった。
 眠かったわけでも疲れていたわけでもないけれども、今はそうした方がいいような気がして。
 だって、ソファに横になった僕を見て、義兄上がどこかほっと安堵したように見えたし、義兄上はきっと、僕に休んでほしいのだと思うから。
 そうして僕は義兄上の執務室の応接スペースにあるソファの上、寝ころんだまま、執務に励む義兄上をじっと見つめ続けた。
 程なくして陽が陰ってくる。
 赤い夕陽。
 義兄上はキレイだ。
 とってもキレイ。
 僕は義兄上ほどキレイな人を他に見たことがなかった。
 否、兄様も義兄上と、とてもよく似たキレイなお顔立ちをしていて、むしろ義兄上よりも髪の色も薄いぐらいなのだけれど、どうしてだろう、僕には比べられないぐらい、義兄上の方が美しく思えるんだ。
 兄様や他の人には、僕の方がキレイだとか言われるんだけれど、僕自身がそんな風には思えないんだから仕方がない。
 義兄上の灰色の髪が、オレンジ色に染まっている。
 斜めに入った赤い夕陽に、部屋の全部がオレンジ色だ。
 キラキラと輝く紫の瞳も、染み一つない真っ白な肌も、全部全部オレンジで。
 微かに、頬へと影を落とす、睫毛さえオレンジだった。
 なんてキレイ。
 僕は義兄上が言うように、自分で思うよりもずっと疲れてしまっていたのかもしれない。
 次第にうとうとと思考が揺蕩い始めて。
 そんな義兄上を眺めるうちに、いつしか僕は眠りへと、深く、意識を沈めてしまっていたのだった。
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