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第一章・リーファ視点
1-7・隠せない
しおりを挟む情けなくもえぐえぐと泣きじゃくる僕を、義兄上はぎゅっと抱きしめてくれる。
「ああ、リーファ。どうしたんだ、そんなに泣いて。いったい何があったんだ」
僕は何よりも何処よりも安心できる義兄上の腕の中で、涙を流しながらすりすりとすり寄った。
まるで小さな子供がいやいやをするかのような仕草だ。
「リーファ」
義兄上は宥めるように僕の名を呼んだ。
その声があんまりにも優しいから、僕はますます涙が止まらなくなってしまって。随分長いこと泣き続けることになった。
気が付くと僕は、義兄上の執務室にある、応接スペースのソファの上、の更に義兄上の膝の上にいて、義兄上は変わらずに僕を宥めてくれていた。
泣いている間中、僕は混乱しきっていたのだろう、まったく気付かなかったのだけれど、どうやら兄上は泣きじゃくる僕を抱えて、ここまで移動してくれていたらしい。
確かに、僕が蹲っていたのは中庭だったし、いつまでも外にいるのは良くないものね。
ようやく少し、涙が止まり始めた僕の顔を、義兄上が柔らかな眼差しで覗き込んでくる。
「落ち着いたかい? リーファ」
やっぱり何処までも優しい声で穏やかに尋ねられて、僕はこくりと頷いた。
まだまだ僅かばかり、涙は残っているのだけれど、さっきまでのわけがわからないまま泣きじゃくるなんていう状況ではなくなっている。
兄上が言うように、少しだけ落ち着けたのも確かだった。
そうなって初めて、僕は改めて自分のお腹を意識した。
とくん、とくん、あたたかな熱が脈打っている。
僕以外の鼓動。僕の赤ちゃん。
「義兄上」
「うん? どうしたんだい、リーファ」
おずおずとした呼びかけに、やっぱり兄上は穏やかに応えて下さって、僕はなんて話をすればいいのかと少しだけ迷った。
でも。魔力の少ない平民や下位貴族でもあるまいし、僕が子供を身ごもったなんてこと、見ればわかる話なのだ。
なにせ義兄上はこの国の皇帝で、魔力の多さは折り紙付き。
僕よりも髪の色は少し濃くて灰色だけど、それでも充分に淡い色。澄んだ紫の瞳もとってもキレイ。全部、魔力が多い証だ。
その上、当たり前にも義兄上は、探査能力にも優れていて。
だから、僕のお腹に子供が宿ったことなんて、一目見たらわかったはずで、だからもうきっと知っている。
隠すなんて出来るようなことじゃないのだから。
それでも僕の口は重く、なかなか開くことが出来なかった。
義兄上は穏やかだ。
いつも通り、優しく僕を包み込んでくれる僕の義兄上。
「義兄上、僕、僕……子供が、出来たん、です」
ようやく何とかそう、口に出した僕に、義兄上は目を細めて微笑んで。
「うん、そうだね」
そう、はっきりと頷いたのだった。
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