【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

文字の大きさ
上 下
8 / 148
第一章・リーファ視点

1-7・隠せない

しおりを挟む

 情けなくもえぐえぐと泣きじゃくる僕を、義兄上あにうえはぎゅっと抱きしめてくれる。

「ああ、リーファ。どうしたんだ、そんなに泣いて。いったい何があったんだ」

 僕は何よりも何処よりも安心できる義兄上の腕の中で、涙を流しながらすりすりとすり寄った。
 まるで小さな子供がいやいやをするかのような仕草だ。

「リーファ」

 義兄上は宥めるように僕の名を呼んだ。
 その声があんまりにも優しいから、僕はますます涙が止まらなくなってしまって。随分長いこと泣き続けることになった。
 気が付くと僕は、義兄上の執務室にある、応接スペースのソファの上、の更に義兄上の膝の上にいて、義兄上は変わらずに僕を宥めてくれていた。
 泣いている間中、僕は混乱しきっていたのだろう、まったく気付かなかったのだけれど、どうやら兄上は泣きじゃくる僕を抱えて、ここまで移動してくれていたらしい。
 確かに、僕が蹲っていたのは中庭だったし、いつまでも外にいるのは良くないものね。
 ようやく少し、涙が止まり始めた僕の顔を、義兄上が柔らかな眼差しで覗き込んでくる。

「落ち着いたかい? リーファ」

 やっぱり何処までも優しい声で穏やかに尋ねられて、僕はこくりと頷いた。
 まだまだ僅かばかり、涙は残っているのだけれど、さっきまでのわけがわからないまま泣きじゃくるなんていう状況ではなくなっている。
 兄上が言うように、少しだけ落ち着けたのも確かだった。
 そうなって初めて、僕は改めて自分のお腹を意識した。
 とくん、とくん、あたたかな熱が脈打っている。
 僕以外の鼓動。僕の赤ちゃん。

「義兄上」
「うん? どうしたんだい、リーファ」

 おずおずとした呼びかけに、やっぱり兄上は穏やかに応えて下さって、僕はなんて話をすればいいのかと少しだけ迷った。
 でも。魔力の少ない平民や下位貴族でもあるまいし、僕が子供を身ごもったなんてこと、見ればわかる話なのだ。
 なにせ義兄上はこの国の皇帝で、魔力の多さは折り紙付き。
 僕よりも髪の色は少し濃くて灰色だけど、それでも充分に淡い色。澄んだ紫の瞳もとってもキレイ。全部、魔力が多い証だ。
 その上、当たり前にも義兄上は、探査能力にも優れていて。
 だから、僕のお腹に子供が宿ったことなんて、一目見たらわかったはずで、だからもうきっと知っている。
 隠すなんて出来るようなことじゃないのだから。
 それでも僕の口は重く、なかなか開くことが出来なかった。
 義兄上は穏やかだ。
 いつも通り、優しく僕を包み込んでくれる僕の義兄上。

「義兄上、僕、僕……子供が、出来たん、です」

 ようやく何とかそう、口に出した僕に、義兄上は目を細めて微笑んで。

「うん、そうだね」

 そう、はっきりと頷いたのだった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...