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第一章・リーファ視点
1-4・義兄上のお相手
しおりを挟む僕は今の生活にとても満足している。
と、言うか不満がどこにもない。
義兄上も兄様も僕をとっても可愛がってくれるし、魔術師塔でだって大切にしてもらっている。かと言って自由がないわけじゃなくて、城下や他国にでも、余程危ないところじゃなく、事前に申し出て、かつ、義兄上や兄様の認めた誰かと一緒なら、特に反対されるようなこともほとんどなかった。
僕は母様と一緒で転移魔法が得意なんだ。何処へ行ったって一瞬で戻って来られるしね。
ちなみに、さっき認めた誰か、と言ったけれど、僕と一緒に出掛けてくれるのが一番多いのは義兄上本人だったりする。皇帝業はいいのかなぁって思うんだけど、大丈夫なんだって。
皇帝というのはもしかしたら存外に暇なのかもしれない。
とにかく、そんな風に、僕はとっても満ち足りた人生を歩んでいたんだ。
だけど。
義兄上には伴侶がいない。
お嫁さんも旦那さんもだぁれも。
僕が知る限り、恋人、みたいな人もいなくて、夜だっていつも僕と一緒だ。仕事をしている以外の時間の全てで僕と過ごしてくれる義兄上に、そういう相手がいないのは明白で、本当は皇帝に即位する時、少しだけ話題には上がったのだそうだ。
でも義兄上は、
「今はいませんがいずれ出来ますよ。ご安心ください。逃がしませんから」
って、断言したんだって。だからずっと前、それこそ僕が生まれてすぐの時から、心に決めた人がいるのかもしれない。
今、その人がどうしているのかはわからないけれど。
ただ、僕は少しだけ悪い子だから、義兄上のお相手が、このままわからないままならいいなって思っている。
あと、兄様は相変わらず僕に会うとよく、
「逃げたくなったら本当に僕に言っていいんだからね、絶対に逃がしてあげるからね」
って何度も何度も念を押してくるんだけれど、いまだにそれがよくわからなかったりする。だって僕、逃げたくなったりしたことなんてないんだもの。
と、言うか、何から逃げるって言うんだろうね。
とにかく、そんな風に義兄上にお相手はいなかったんだ。
少なくとも、僕のわかる範囲ではね。でも。
いつも通りの一日だった。
僕は魔術師塔から帰ってきたばかりで、時間はちょうど、午後の休憩の頃だったから、義兄上を誘って、一緒にお茶でも飲もうと思ったんだ。
だから、義兄上の執務室へと向かっていた。
慣れた道。中庭を突っ切るのが近道だから、そこを通りかかった。その時だ。
少し先に、義兄上がいた。
僕は声をかけようとして躊躇う。だって義兄上は一人じゃなくて、見覚えのある女の人と一緒だったんだ。
その女の人は、ナウラティスの属国の一つである、ドゥナラル公国の第一公女様だった。
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