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90・懐旧と因果③
しおりを挟む小美はただ何も言えず、蒼貴妃の激情を眺めていることしか出来なかった。
「わかっている、わかっているのよ、貴女には何の罪もない。きっと、小澄にだって。小澄は、優しいから……ただ、見捨てられなかっただけだわ……」
本来は庶子であったという小美。小澄、つまり西王と同じ顔。
そして父はかつての皇帝か、もしくはそれに近しい存在であった誰か。
否、皇帝だった者のはずだ。
なぜならば琥珀色の瞳は、皇帝の子供にしか引き継がれない、それも二人にしか。
その二人の子供のうち、1人は次代の皇帝となる。
そうしたら、皇帝となった者の子供には、また琥珀色の瞳が引き継がれるが、もう一人の皇帝とならなかったものの子供には引き継がれないからだと、習ったことがあるのを思い出した。
例外はそのもう1人もまた皇帝となった時。
そうすれば、その後に生まれた子供にも琥珀色の瞳は引き継がれる。
今の皇帝ではなく、おそらくその前でもない。ならば、更にその前ということとなり、それは、確か。
先々代皇帝。先代皇帝の兄。10年で退位した……――今も、存命なのだと聞いていた。
おそらくはその先々代皇帝が、本当の小美の父であり、西王と同じ顔だということは、母はおそらく西王の、近しい姉妹か何かなのではないかと思われる。
そして姪に当たる小美を、見捨てられなかった西王は小美を引き取り、嫡出子とし、それがきっと、蒼貴妃に対する裏切りのようになってしまったのだろう。
あるいは、だけど。
疑問に思った。
それでも、後宮を辞して、西王の元へ嫁ぐことは出来たはず。先程、蒼貴妃自身が告げたよう、小美の母となればよかったはずなのだ。だから。
「……でも、それは、けれど、どうして……」
小美はつっかえながら絞り出す。
自分が抱いた疑問を、ようやく何とか口に乗せた。
そうしたら蒼貴妃はおかしそうに笑って。
「まぁ、何を言うかと思えば。小美ったら。そんなの、あの方が許すはずないわ」
あの方、はつまり、小美の父に当たるおそらくは先々代皇帝のことなのだろう。
小美はその人物のことを知らない。
会ったことがないとまでは言わないが、精々が一度、幼い頃に顔を合わせたことがある程度。
親しいわけもなければ為人もわからず、ただ、歴代でも類を見ないほど、長大な魔力を持つ、優秀な皇帝だったのだと聞いていた。
そんな先々代皇帝を父に持つ、それも皇家特有の琥珀色の瞳を持つ子供が庶子。それは確かに都合が悪かったことだろう。
許さない、ということは、その先々代皇帝は小美の母のみならず、伯父、もしくは叔父であろう西王をも囲っているとでも言うのだろうか。
年に数度会いに来る、西王の面影を思い出し、わからないでもないな、と思ってしまった。
少なくとも、蒼貴妃はそう思って諦めてしまったのだろうとも。
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