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88・懐旧と因果①
しおりを挟む「ねぇ、小美。貴女は知っているはずよ。だって貴女の受けた教育は、皇族の者が受けるそれと同じなのですもの。それも、貴女、随分優秀で、他の殿下方より短い期間で学び終わったしまったとも聞いているわ。実際、そこにいらっしゃる玉翔殿下とも、机を並べたことがあるのでしょう?」
蒼貴妃の話には覚えがあり、小美は素直に頷いた。
しかし蒼貴妃は小美の方など見ずに話し続ける。
視線はずっと遠く。
「貴女はその教育を受ける為に、後宮に入宮したと言ってもいいかもしれないわね。もっとも、そうでなくとも、白家の嫡出子となる為には、いずれにせよ貴女は入宮しなければならなかったでしょうけれども。だって貴女のご両親は正式に婚姻を結んでいるわけではないのですもの。そのままでは庶子になってしまう。貴女の血筋でそれは、あまりにもよろしくないわ。だから、貴女が生まれて、女児であった時から、貴女の入宮は決まっていたの。とは言え、それでも2歳などと言う幼さでの入宮になったのは、貴女への配慮は勿論、あの方が、自身の伴侶の関心が貴女にあることを、きっと、看過できなかったからに過ぎない。――……あの方らしい悋気ね……」
悍ましい。
吐き捨てられるような言葉と同時、一瞬、蒼貴妃の横顔が険しく変わった。かと思えば、まるで見間違えかと思う程、瞬く間に、元の穏やかな微笑みへと戻る。
小美はただ、蒼貴妃から目が離せない。息を詰めて、彼女の声に意識を向けた。
「一度、後宮に妃妾として入宮するということは、皇家の後ろ盾を正式に受けることを意味する。正当に離縁後、待遇したら、庶子が嫡出子となることもできる。そういう背景もあるから、特に四家の主家に生まれた女児、それも長女であれば、慣例として、一度入宮することとなっている。後宮は特殊な場所だから……行儀見習いという側面もあるし、もちろんそのまま妃として残ることにも意味はある。何よりも最低三年間、後宮で問題なく過ごせることが重要なの。私もそうよ。だから後宮に入宮した」
元は一時的な、いわば箔をつける為の仮初の入宮だったのだと蒼貴妃は続けた。
後宮で三年間を無事に過ごせるならば、どこででもやっていけるからと。
小美は思い出す。
確かに遠く、習った記憶のある後宮の規則だったと。
「私に婚約者が出来たのは、私が10歳の時だった。7つも年下の可愛らしい男の子。次期当主となるからと、同じく他家とは言え当主の長子だった私に話が来たわ。その時点では候補の一人。だってそれより年の近い、小瑛がいたのですもの。私も、7つも年下なのですもの、思う所があったわ。でも……実際に会ってみると、可愛らしくって。いつか、私がこのこと……なんて、思うようになったのは、いつのことだったかしら。相手はほんの子供だったのに。変よね」
おかしい、なんて笑う声は、なのにどこか慈しみに満ちて、小美は居た堪れない心地になる。
誰の話をしているのかが、もう、わかるような気がしているからだった。
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