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82・提案、そして。③

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 それまで、小美シャオメイと蒼貴妃が話していたのは、棗央宮から、少し王城とは逆の方へと進んだところにある資料庫を超えて、更に少し歩いた辺り、李東宮にもほど近い房の一つだった。
 とは言え、李東宮は棗央宮からだと、資料庫と同じぐらいの位置にあり、そこよりも更に王城から離れた場所ではあったのだが。
 蒼貴妃が歩き始めた方向は、杏南宮よりの外れの方だった。
 王城や棗央宮、勿論、李東宮すらもどんどん遠ざかっていく。
 後宮内には園林がいくつもある。
 李東宮にもまた、広いそれが設えられていたはずで、そちらではないのかと、小美は意外に思いながらも、おとなしく蒼貴妃に着いていった。
 時折、言葉を交わしながら進んでいく。
 たわいのない会話。
 ここしばらく紅嬪から聞かされていた噂話よりもっと穏やかで、何より小美が興味を惹かれない話が多かった。
 小美の方には話題らしい話題がほとんどないので、もっぱら相槌を打つばかりだ。
 とは言え、これはいつものこと、蒼貴妃に気にしたような所はなく。
 そうして、いくつかの回廊を超えて、更に進んだ先、見えてきた池は広く、折れ曲がった九曲橋は長く、水榭は少しばかり手狭に見えた。
 ちらと目に入ったルイが、ひどく苦い顔をしているのが気になったけれど、だからと言って何が出来るはずもない。
 今、小美が可能なのはただ、蒼貴妃と並んで歩くことだけで。
 点在する水榭の中でも一番奥まっているのではと思える場所にある一つで、蒼貴妃がようやく立ち止まる。

「ほら、明妃、見て」

 すっと指示されたところにはなるほど、ほころび始めた梅の花が、いくつも枝を伸ばしていた。
 元々後宮は高い壁に囲まれているのだが、位置的におそらく、ここからなら壁が見えてもおかしくないほど、この辺りは外れの方だと思われる場所で、けれどいくつもの岩や木々が植えられていて、それもあり上手くわからなくなっていて。
 その梅の木は、そんな木々の内の一角のようだった。
 目の前の景色に、小美はなるほどと小さく頷く。

「美しい……」

 ほぅっと、感心したような呟きが知らず落ちてしまうほど、この場所から見える様子は綺麗で。わざわざここまで足を運んだのも頷けた。

「こんな場所があったなんて」

 長く後宮にいるのに知らなかったとぽつり、言葉を落とす小美に、蒼貴妃がにこりと笑みを深める。

「この辺りは穴場なの。端の方だからあまり人も来ないし……静かで。何よりこの景観。他に見劣らないほど見事だわ」

 小さく笑みをこぼしながらの言葉に、小美は素直に頷いた。

「さぁ、そこにかけて。少し一息つきましょう」

 促され、近くに備え付けられていた卓に着く。
 付き従ってきていた幾人かの宮人が、手早く茶の用意をし始めるのを尻目に、小美は今一度目の前の景色に目をやった。
 しゃらと、微かな風に揺れる梅の枝が、まるで涼やかな音色を運んでくるかのよう、ただ、その先で囁いていた。
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