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81・提案、そして。②
しおりを挟む断る理由などない。
夕食までにはやはりまだ時間があったし、そもそも予定なども何もなく。
「ありがとうございます、ご一緒させて頂きます」
頷いた小美に、蒼貴妃はよかったと、微笑んだ。
「なら、さっそく向かいましょうか」
などと言いながら、先に立ち上がって歩き出す蒼貴妃に、小美も素直に従って後に続いていく。
と、ふと傍らの瑞が一瞬、顔を顰めたのに気付いて視線で問いかけた。
いったいどうしたというのかと。
小美からの視線に気付いた瑞は、ほんの少しだけ躊躇する様子を見せ、だけどすぐにそっと、小美の耳元で囁いた。
「このまま本当に一緒に行くつもりか?」
辛うじて聞き取れるぐらいの、おそらくは少し前を行く蒼貴妃には聞こえていないだろう程に小さな声で。
そこに滲んだ警戒を、悟らざるを得なかった小美は、だけどどうして、と内心で首を傾げながら、やはり微かに頷きを返す。
蒼貴妃はこの後宮において、数少ない小美に対しても好意的な人物だ。
今だってただ、小美を元気づけようと、散歩に誘ってくれたに過ぎない。
こんな風に瑞が警戒する理由など、小美には到底理解できなかった。
そもそもからして、こんな状況でなど。
「断れないわ」
立場を顧みても、従うより他にない。
それに、蒼貴妃と、共に散歩に行くことそのものも、別に嫌だとも思えず。
瑞に倣って、やはり小さく囁いた小美に瑞は一瞬、苦く顔を歪めて、次いでそっと息を吐いた。
仕方がないとでも言わんばかりに。
「……そうか。わかった」
わずかばかり顎を引いて、かと思えば、たった今のやり取りなど、まるで何もなかったかのように何食わぬ顔をして前を見る。
ただし、少しだけ、いつもよりも距離が近いような気がして、小美はただ、微かに、首を傾げざるを得なかった。
「小美?」
などと、瑞とこっそりやり取りをしていたせいだろうか、どうやら知らず、数歩、遅れてしまっていたらしい。
蒼貴妃が不思議そうに名を呼ばわってくるのへ、
「はい、こちらに」
返事を返せば、蒼貴妃は微笑んで手招いてくる。
「少し、歩くのよ。せっかくなのだから隣へ」
並べと言いたいらしいと悟って、心持ち歩を速めた。
蒼貴妃の様子はいつも通り、何も変わらない。
穏やかに、おっとりとした笑みを浮かべて。
「本当に……貴女は可愛らしい」
目を細め、そうしみじみと呟く声に、他の宮人たちが含ませる、嘲るような色は、ほんの少しだって見えなかった。
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